再会

 王都を出たオリイル達が悪路を通り、ベルブ達の待つダーウィン町に辿り着いたのは、およそ14日が経過した頃だった。


 行商の使う馬車には、足腰の悪い人や子供を優先して乗せた。

 それ以外は徒歩で進み、王都から大分離れてからは、小まめに休憩を取り、馬を休ませた。


 総勢300人規模の大移動だ。

 先頭は地理を把握している魔族とオリイルの部下達が歩き、残りの騎士達は最後尾を歩いて逸れないようにした。


 移動する際の体力配分や道のり、隊列の組み方など、さすが元騎士を努めているだけあって、オリイル達は頼れる存在だった。


 そして、長旅を経て、深みの森を抜け、遠くに町が見えてきた頃には、魔族の面々に安堵の表情が浮かんだ。


 一方で、ダーウィン町の外仕事をしている者は、何事かと目を剥く。

 大行列で押し寄せてきた人々を始めは「襲撃」かと身構えた。

 ところが同じ魔族の者達が大勢歩いてきたと分かると、すぐに畑仕事をしているベルブ達に報せへ向かった。


 *


 数台の馬車が停まると、町の警護を努めているウェイが問うた。


「何事だ!」


 ウェイの怒号に対し、後ろの列から王宮侍女のイリスが小走りで寄ってくる。


「怪しい者ではありません。我々は王都から避難してきました」

「王都?」

「現在、王都では暴動が起こり、監視の目を掻い潜って、皆で逃げてきたのです」


 イリスが説明している間、畑仕事を切り上げてきたベルブが立ち並び、大行列を見渡す。国が機能していた頃、ウェイはイリスとは違う持ち場であったため、全くと言っていいほど顔を合わせていない。見かけたとしても、会わない期間の方が長く、やはりお互いの事を知らなかった。


 ところがベルブだけは違う。

 王宮に仕えていた顔ぶれは覚えている。


「イリス!」


 名前を呼ばれ、イリスは頬が綻んだ。


「あぁ、殿下! ご無事で何よりでございます」


 今すぐ手を取りたい気持ちはあったが、ベルブにはもう一つ朗報がある。


「殿下。ぜひ、会って頂きたい方がおります。少々お待ちを」


 一礼して、馬車の方へ戻っていくイリス。

 ウェイは声を潜めて、ベルブに聞いた。


「知り合いですか?」

「王宮に仕えていた侍女だよ」


 ベルブが知っている、というならば、これ以上疑う事はない。

 後ろに町の人々が群れを成し、一様に入口へ立つ魔族達を見ていた。


 馬車に戻ったイリスは、何やら手を取り、誰かを荷台から下ろしていた。手を引いて、馬車の陰からイリスが姿を現し、会わせたい人物の顔がようやく目につく。


 ベルブは心臓が跳びはねるかと思った。


 イリスが連れてきたのは、ベルブがずっと会いたかった者。


「姉さん!」


 ベルブの声に、周囲が目を剥いた。

 彼の姉、ということは、ただ一人しか思い浮かばない。


「ベルブ!」


 町の住民からは、疑心が全て消えた。

 リース姫がいる行列となれば、逃れてきた人々を立ち往生させるわけにはいかない。国体と共に逃れてきた人たちなのだから、道中世話をしてくれた恩義と、姫が逃げなければいけないほどの事態が、王都で起きたのだと確信。


「みんな! 手を貸してくれ! 水と食料を用意しろ! パテー! 天幕を張れ! 急げ!」


 ウェイはよく通る声で、仲間達に指示を出した。

 それから、イリスと肩を並べ、抱き合う姉弟を見つめる。


 姫を救う事は絶望的な状況だった。

 助け出せたのは、紗枝のおかげだろう。

 ウェイは紗枝の事が頭に浮かぶと、行列の中に目的の顔を探した。


 だが、人垣の中に、彼女の姿はなかった。

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