立てない苦痛
死屍累々の王都は、未だに火が燻っている。
畑は焼かれ、住める場所は全壊。
唯一、王城は無事だが、飢えを凌ぐための物資が足りず、補給がない事からシュートラントの兵達は、北上せざるを得ない状況となった。
北部の港に行けば、食べ物があるかもしれない。
魔法を使えば水は飲めるだろう。
ただ、多くの人間が詰め寄れば、確実に一つの町は機能を麻痺してしまう。こういった問題が浮上する事から、意図的に難民を送る行為は攻撃となる。
兵法を学んでいる者にとって、常識と言っていい。
それぐらい人海の波が押し寄せる事は、他を圧迫する事に繋がるのだ。
後の事まで考えて都を捨てたさせた張本人。――紗枝は、王都の暴動から二日が経ち、黒女と共に底都へ来ていた。
「ん”……っ、ぐっ、う”う”う”っ!」
底都の隅っこにある
「ホゥ」
戸を叩くと、代わりに紗枝の苦しげな声だけが返ってくる。
黒女には見えていないが、厠の前にはヴィーダもいた。
戸の前で胡坐を掻き、呆れた表情を浮かべている。
「腐った水を飲むからだぞ」
「う”う”っ!」
「兵達はとっくに移動を始めた。あいつらでさえ、早く決断して行動しているというのに。お前は、いつまで踏ん張ってるつもりだ?」
花瓶の水だ。
何日放置していたのか知らないが、時間差で紗枝の腹を攻撃し、まともに動けない状態となっていた。
「ああぁ、殺してぇ! お願いっ! 殺してぇ! う”っ――」
放水の音が戸の向こうから聞こえてくる。
黒女は健気にコップを使って水を汲み、戸を叩く。
何度も脱水していることから、中で倒れてしまう恐れがあった。
戸には鍵が掛かっていないので、黒女は水を持って、しゃがみ込む全裸の紗枝に近寄る。
「ホゥ」
「はぁ、はぁ、ま、待って。はぁ、……くる……し……ぁぁ……」
ヴィーダは嘆息し、「馬鹿な眷族を持ったものだ」と、その場に寝転がった。
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