獄長と処刑人兄弟

 監獄一階の闘技場では、二人の兄弟が処刑の真っ最中だった。

 一人は恰幅かっぷくの良い男、ザディ。

 もう一人は、ひょろ長い体躯の男、ジュディ。


 ピエロのように白塗りをした格好で、手には処刑道具が握られていた。


 円形の闘技場を囲むように設計された観客席では、獄長のドワゴがいる。


「ぶっひぇひぇひぇ! 魔族が泣いてるぞぉ! 泣いてるぞぉ!」


 喜劇を鑑賞してるかのように、ドワゴが腹を抱えて笑う。

 闘技場の中央には棒が立てられており、そこには一人の妊婦が、両手両足を縛られた状態で拘束されていた。


 体中ボロボロになりながらも、腹の子だけは傷つけまいと守ってきた証が、無傷のお腹にはあった。


「お願いです! この子だけは! せめて、この子を産んでから、私を殺してください!」

「ダメだぁ! 汚い命はぁ! 全部ズタズタにしなくちゃ、ボカぁ気が済まねえんだァ!」

「お願いします! お慈悲を!」


 悲痛な叫び声が会場に響く。

 妊婦を殺すという非道徳的な行いを楽しむ客は、少なからずいた。

 観客席では人間が今か今かと待ちわびており、ほくそ笑んでいる。


 ドワゴは処刑を命じようと、手にした鞭の先を妊婦に向けた。


「ドワゴ様!」

「んぁぁ?」


 観客席の入り口から、看守兵が叫んだ。

 慌てた様子で駆け寄ると、汗に濡れた顔で兵が報告する。


「脱走です!」

「えぁ? 殺せ! 殺せ殺せ!」

「は、はい。もちろんです。ですが、全ての出入り口を封鎖しておりますので、万が一闘技場を通る事があれば、ドワゴ様の身に危険が――」


 報告する兵の頭を掴むと、ドワゴは怪力で体を持ち上げた。

 八つ当たりをして処刑を再開しようか、と考えたが、悪趣味な趣向が頭を過ぎる。


「おぇ! 兄弟! 中止!」


 処刑道具を構えた兄弟は、獄長の方を向く。


「脱走した奴がきたら、まとめて殺せぇ!」


 催しを増やせば、観客が悦ぶ。

 汚らしい顔には邪悪が宿っていた。

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