牢屋仲間

 牢屋に戻った紗枝は腹を擦り、部屋の隅で待つ黒女に寄りかかる。


「ふう。悪代官が自ら来るって言うから、拷問に耐えてんのに。なかなか来ないわね」


 ずっと前から鉄で体中を打ち、肉体の強度を上げる鍛錬を欠かしていない紗枝は、鉄棒如きで叩かれても音を上げなかった。


「にしても」


 足元に転がったオリイルに目を向ける。

 豊満な肉体が目につき、紗枝にとっては望んでも手に入らない肉体美の方が拷問より堪えた。


「あなた。食事に何か盛られたね。昨日より汗がすごいわ」


 同じ牢屋仲間として、紗枝は親切にしようと決めた。

 待っている間の時間は、とても退屈なのだ。

 やる事と言えば、寝る事と鍛える事。


 それ以外は、何か話をして暇を潰そうかと考えた。


「しっかりしなさい」


 上体を抱えて、額に張り付いた髪を指で取ってあげる。

 紗枝は親切にすればするほど、脳裏に浮かぶベルブと乳繰り合いたくて仕方なかった。


 何せ、念願の婚約者を手に入れたのだ。

 気合は十分。

 他の男に惑わされる事などあり得ない。


 時間が経過すればするほど、「こっちから行こっかな」と辛抱堪らなくなっていた。


「はぁ……はぁ……っ」


 額に手を当てると、熱かった。

 唇は乾燥して、吐息は熱い。

 紗枝はオリイルの股を見た。


 尋常でないくらい股下から水が溢れていた。

 同じ女だからこそ、湧き水のように溢れる分泌液に顔をしかめ、この異状が分かった。


「黒女。またお願いできる? 水を持ってきて」

「ホゥ」


 フクロウの鳴き声を発し、黒女は牢屋の格子をすり抜け、通路を走っていく。


 実のところ、体力を奪われなくて済んでいるのは、黒女の存在が大きかった。彼女がいるから、紗枝は安定した綺麗な食事を取れるし、オリイルにも綺麗な水を与えて、共に過ごせている。


「……ぱ……ぱ」

「わたしは、あなたの親じゃないっての」


 子供のようにオリイルは平らな乳房に顔を埋めてきた。


「うーん。……このままじゃ、時間ばかりが過ぎていく」


 残してきたベルブの周りは、女が多い。

 となると、万が一があるかもしれない。

 そうなったら正気を保つ自信がないので、紗枝はベルブの事で若干の焦りがあった。


「拷問を鍛錬代わりにするのは飽きたし。さっさと、出ましょうかね」


 手を団扇うちわ代わりにして、オリイルの顔を扇いであげた。

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