一章 女囚編

良識のある人間

 シュートラント大帝国の皇都にある、処刑場にて一人の男が空を仰いでいた。

 普段整えている白髪頭は、乱暴に扱われたことで乱れている。

 整えた髭は、血と唾液に汚れ、酷い有様だった。


 処刑台に首を座らされ、隣には斧を持った処刑人が立つ。


(オリイル……。後は頼んだぞ)


 父、オリゴは娘に全てを託していた。


(魔王の息子を護れ。戦争を起こすな。人はまた、……愚かな道を――)


 全ては、人を統べる者が企んだはかりごと

 愚かな真似をしていると自覚しているのに、尚罪を重ねる愚かな者達。


 人間の中でも魔族に対して、オリゴは良識的だった。

 両陛下の目論見を暴き、娘に全てを話したのは、数か月前。

 娘、オリイルがウー大陸に渡ってからも、オリゴは調査を続けていた。


 だが、結局は泳がされていただけ。

 兵隊が屋敷に雪崩れ込んでくると、オリゴは捕らえられ、処刑は待ったなしの勢いで決まった。


「最期に、何か伝えたい事はあるか?」


 司祭が悲しみの色を浮かべた瞳で言った。

 オリゴは目を閉じ、口を開く。


「いい加減、……愚かな真似を繰り返すな。支配者は己が何をやっているかからこそ、愚かなのだ」


 その声を聞いているであろう、両陛下は見晴らしの良い席で、オリゴに冷たい眼差しを向ける。


「やれ」


 この日、オリイルの父が処刑された。

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