最強の刺客、出兵

 処刑隊を返り討ちしてから、10日が過ぎた。

 準備を終えた紗枝は、ボロ衣を着て、檻が設置された馬車に乗り込む。

 必要な装備は、全て黒女が体の中に収納し、紗枝の体に張り付いた。


黒女くろめは便利ねぇ」

「ホゥ」

「人がいる場所では、静かにしてなさい」


 王都への道のりが分かるパテーが一緒に行くこととなった。

 砦の兵士が『罪人を捕えた』名目で、馬車を出し、隧道ではない道を行く。


 道のりとしては、ウー大陸の東側から北上する道筋だ。

 町から出る際、魔族達は総出で、紗枝を見送った。


「絶対に生きて帰ってこいよ!」

「死ぬんじゃねえぞ!」


 深緑の森へ続く道に、紗枝を乗せた馬車が遠ざかっていく。

 魔族達は一人の女武者に望みを託した。


 自分達では勝てない相手を殺してもらうために。

 祈りを捧げて、心から紗枝の討伐達成と帰還を望んだ。


 人垣の前でベルブが背筋を伸ばし、一言に気持ちを込めた。


「姉上を、みんなを……お願いします。紗枝さん」


 こうして、悪しき親玉に向けて、刺客が放たれた。

 かつて、代官を私利私欲で殺した女武者は、この度死にかけの魔族のために、再び代官を殺す事となったのである。


 檻の中で、紗枝は暢気にベルブと乳繰り合う事だけを妄想していた。

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