初めての使役

 風呂場で、紗枝は尻丸出しの状態で、ある物を桶に浸していた。


「うぇぇ、気持ち悪い。なにそれぇ」


 隣ではパテーが一緒に座り、桶の中を覗きこんでいた。

 実は、スライムの核を戻すには、面倒な手順がある。

 中に染み込んでいた汚い水を抜くために、日干しにする必要があったのだ。


 網で日干しにした後、干からびた核を桶に入れ、湯に浸した。


「んー、早速、血を入れよっかなぁ、って」

「え、ちょ、ちょっと!」


 パテーから持ってきてもらったカミソリで、何の躊躇いもなく手の平を切る。滴る赤い血を見つめていると、パテーがすぐに治癒魔法を使ってくれた。


「何よ。あんたが、こうしろって言ったんじゃない」

「そうだけどぉ」


 ウェイは知らなかったが、パテーは王立を首席で卒業しただけの事はあり、知識が豊富だった。使役するには、術者の体液が必要との事で、カミソリを準備してもらったのだ。


「だ、唾液でも、いいんだよ?」

「馬鹿ね。こういうのは血が一番良いのよ。わたしの一部を受け継いで、二度と離れられなくなるんだから」

「どうして、いつも病んだところから発想するの!?」


 二人でジッと桶の中を覗いていると、微妙に核が変化してきた。

 ナマコのように、ぶよぶよとした核は何本もの触手を生やし、蠢きだしたのだ。


「きっも!」


 あまりの姿にパテーが悲鳴を上げる。

 次第に黒く変色していき、桶に入った水が全て吸収されていく。


「わかった。これ、水足りないんだ」

「ねえ。待って。お風呂に入れないで!」


 桶の中身をひっくり返し、浴槽に投入。

 見る見るうちに、浴槽の水位が下がっていき、湯船からは艶めかしい光沢を放つ黒い影が立ち上がってくる。


「あ、わわわ」

「へえ。やっぱ、戻るんだ」


 ワクワクしながら眺める紗枝にしがみ付き、パテーは震えた。


「なんか、このスライム変だよ! 普通はスライムって、色がないもん! なんで黒色なの!?」

「さあ。そういう種類なんじゃない?」


 手足が人間の形になり、頭部は相変わらず、のっぺらぼう。

 大きな乳房と大きな尻をして、支えるために必要な腰回りが締まっていく。


「――ホゥ」


 フクロウの鳴き声が、風呂場に響いた。

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