気が触れている

 ポンプの瓦礫は、反対側にいたベルブ達の所にまで飛んできた。


「わあああっ!」

「伏せろ!」


 全員が頭を抱えて、その場に蹲る。

 騎士たちは瓦礫に当たらないよう、風の膜を自分達の周囲に作り、歯を食いしばった。


「桁外れの突風。間違いない。あいつ、やり合ってる!」

「紗枝さん、大丈夫ですかね……」


 ウェイたちに紗枝が言ったこと。


『用が済んだら、全員で逃げてください。助けに来なくていいです』


 自分を見捨てろ、と紗枝は言っていた。

 もちろん、せっかく救出した魔族たちの命があるのだから、ウェイたちは逃げるつもりだ。

 予め決めていたはずなのに、気持ちが留まる事を望んでいる。


「祈るしか……ないじゃない……っ」


 ポンプの強さを騎士達は知っていた。


「風神って呼ばれてる奴だよ。戦い好きだから、昇格を拒んだとか噂で聞いたね」


 他の騎士も、恐るべき風の荒れ狂いに、冷や汗を流していた。

 町を丸ごと嵐が呑み込んでるようなものだ。

 空を見上げれば、未だに落ちてこない残骸の影まで見えた。


「紗枝さん……魔法使えないんですよ!?」


 現状がどれだけ狂っているのか、騎士達だって分かっている。

 桁外れの魔法を使えて、相手の魔力を封じる反則級に腕の立つ兵。

 対して、紗枝は魔法が使えない。

 施された魔法は、刀が折れないように術式を刻んでいるのみ。


 圧倒的に不利な状況に、単身で臨んでいるのだ。


 気が触れている。

 心臓は落ち着きなく、脈が乱れていて、全員が固唾を呑んでいた。


「ぼ、ボク……、行ってきます!」

「殿下!」


 ウェイが後ろから抱きつく形で押さえる。


「いけません! 巻き添えを食らいます!」

「でも、このままじゃ、紗枝さんが……」

「あいつが言い出したことです」


 ウェイは眉間に皺を刻む。


「……信じましょう。風が止んだら、ここを去ります」


 力強く抱きしめられ、ベルブは空を見上げた。


「紗枝さん」


 強く拳を握り、ベルブは紗枝の無事を祈った。

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