躯一つの情報

 ナユタの森の西口では、甲冑と外套がいとうを着込んだ者達がいた。甲冑は銀のプレートアーマーで、刃幅の広いロングソードをまともに食らっても、身を護る事ができる堅牢な造り。


 そのため、盾は必要ない。

 機動性に欠ける所はあるが、両手が自由に使える分、遠慮なく大振りの武器で制圧できるというもの。


 兵士の数は、総勢30名。

 どれも熟練の兵士で、野盗の集団や他の部隊と喧嘩をできる腕前。


 その彼らが西口からナユタの森へ入ったところで、歩を止めた。

 日の差さない薄暗い山道で、仲間の死体を見つけたのだ。


「ポンプ。きてくれ!」


 仲間の呼ぶ声に、名前を呼ばれた男は歩を速めた。

 体長が約2mを優に超える巨体。

 巨躯は筋骨が膨れ上がり、プレートアーマーを内側から押し上げている。


 日の下を歩けば反射で光る、ツルツルとした頭。

 目はギラついており、歩く狼のようであった。


「どうした!?」


 威圧的な雰囲気を全身に纏う大男。

 そのギラついた目が大きく見開かれ、眉間には濃い皺が刻まれた。


 三体の人影が目に飛び込んできた途端、おおよその見当はついていた。

 仲間が発見したのは、躯だ。


 しかし、予想を遥かに上回ったのは、躯の状態であった。


「二人は、立った状態で固まっちまってる。こいつは、お寝んね」


 部下の男が肩を竦め、首の断面を指した。


「首をちょん切られるってのに、

「命を差し出したってか? 笑えないな」


 仲間が自前の剣を抜いて、傷口と見比べる。


「チッ。これ、何で斬った? 鉈じゃ、皮が残る。あれは引っかかるからな。斧は中身がちょい潰れるんだよなぁ」


 首の軟骨。血管。肉。皮。

 どれも綺麗に真っ平らだった。

 刃が首筋に食い込めば、ピッタリと張り付いた平地が骨肉を撫でる。


 眼前の躯は人形の首だけが取れたかのように、佇まいがとても静かだった。


 この異様な有様に熟練の兵士達は、冷たい汗を流す。


「魔王の息子がやったのか?」

「どうだろうな」

「残党はいるだろうが、ここまでの手練れは見たことがないぞ。何せ、連中は民族根絶やしを食らってる最中だ」


 家族を目の前で大勢の男に犯される。

 これを見た戦士は発狂するし、戦意が喪失する。

 男は局部を切られて種が絶えている者がほとんど。

 女は外部の種を植え付けられ、魔族の血が薄まった子を孕む。


 現在や未来のカイブ王国に、シュートラント大帝国へ仇名す者は一人としていない。


 それだけ過酷な状況に置かれているのだ。

 だというのに、躯一つで熟練の兵士に重圧を掛けてくる手練れがいるのは、素直に驚きだった。


「……誰がやったんだ」


 ポンプは額から流れる汗を手の平で拭い、肺に溜めこんだ息を吐き出す。


斥候せっこうがやられた以上、情報はなし。野営地に戻ろう。警戒しなくては」


 兵士たちの間に、重苦しい空気が流れた。

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