女武者の通り方

 時を戻し、現在。


「通行証を出せ」

「ありません」


 紗枝は町の入り口で通行止めを食らっていた。

 後ろでは居心地悪そうに、ベルブが俯いていた。


「魔族を連れて歩くには、通行証が必要なんだ」

「手形ですね。どこで発行してもらえますか?」

「王都に行ってこい。そこで金を払えば、通行証が手に入る」


 見張りの兵士は二人。

 兵士の後ろには、木造の家屋が連なり、活気盛んな市場が最奥に見える。人々が行き交い、皆が笑って暮らしていた。


 花が咲くような煌びやかな景色の陰には、闇が潜んでいた。

 鎖に繋がれた魔族と思わしき男女が、汗を流して働いているのだ。

 男はムチを打たれて物を運び、女は人間の気まぐれで暗闇に引きずり込まれる。


 ベルブが「」と言った意味が分かった。


 紗枝は口を尖らせ、しょぼくれた表情で腰に差していた刀を渡す。


「むぅ。これで、どうにかなりませんかぁ?」


 真っ白な鞘と赤い柄をした紅白の刀だ。

 一般的な打ち刀に比べると、やや重かった。

 芯の部分や刃の膨らみが特殊なのだ。


 いきなり刀を渡された兵士は、一瞬強張りを見せたが、鞘を掴んで受け取ると顔をしかめた。


「んだ、こりゃ?」


 紗枝は人懐っこく「えへ」と、笑う。


「異国の武器ですぅ。今ならぁ、わたしも付けちゃいますっ」


 腰をくねらせて兵士の男にすり寄る。

 男の胸に手を当てた紗枝は、色っぽい表情を浮かべて――した。


「んぁ?」


 眼前の呆気に囚われた兵士をよそに、柄を掴んだ紗枝は真横にいる兵士の男の首を斬り、続けざまに鞘を持ったままの兵士の首筋を両断。


 その間、およそ0.6秒。


 肘の間に刃を挟んで血を拭い、素早く刀を納める。

 何が起きたか、さっぱり見えてなかったベルブは、唖然としていた。


「では。これ、返してもらいますね」


 そっと刀を持ち上げると、腰に差してベルブを手招きする。

 ニコニコとした様子で、紗枝は歩み寄ってきたベルブの手を握った。


(男の子の前で、カッコ悪い所は見せられないもんね。誤解は後々解いていくとして。まずは、食べるもの食べないと)


 棒立ちする兵士達に「ありがとうございます」と独り言をいって、早々にその場を離れた。


 首が落ちたのは、それから間もなくの事である。

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