少年の決心

 野宿で一晩を明かし、紗枝は体力が完全に回復した。

 それもこれも、ベルブが食事を分け与えてくれたおかげだ。


 樹木の傍は、地面が羽毛のように柔らかく、肉体の疲労を癒してくれた。


 本当に不思議な森だった。

 朝起きると、乾いた服を着た紗枝に、ベルブが言った。


「紗枝さんは、行く当てがあるのですか?」

「ないよ」

「でしたら、この先を進んでみてはどうでしょう。道なりに真っ直ぐに行くと、人里のある場所へ出られます」


 指示した方角は、両脇に幹の太い木が立ち並ぶ道だった。

 木々の隙間から差し込んだ白い光が地面を照らし、まるでその先には祝福が待っているかのように、幻想的な風景だ。


「紗枝さんの場合は、人間の方ですので。ボクよりは危険が少ないと思われます。仕事を探すのでしたら、ギルドに寄ってみるといいかもしれません。仕事の斡旋を行ってますから」


 刀を脇に差し、「ありがとう」とお礼を言う。

 何から何まで親切な子だった。


「ベー殿は?」

「ボクは……」


 苦笑いをして、ベルブは反対側の道を指す。

 薄暗くて、あまり光の差さない道だ。


「やる事がありますので」

「そっか」

「では。ご武運を」


 悪い夢を見て、今朝は目が覚めた。

 でも、悪夢を見たおかげで、決心が付いたのだ。

 逃げていたら、きっと後悔する。


 何日もの間、森の中で孤独に暮らして、ずっと考えていたことだ。


(お姉ちゃんを助けるために。仲間を……集めないと……)


 ベルブが気を引き締め、無理やり笑顔を浮かべて会釈をする。

 そして、日の当たらない道へ真っ直ぐに進んでいく。

 どこか儚げな少年の背中を紗枝はジッと見つめた。


 鷹のように鋭い目つきで、半分はみ出した白の小ぶりな尻。

 性格は良くて、気遣いもできる。

 可愛らしい見た目とは裏腹に、食べられる草やイモを探す知識がある。


「むう……」


 考えていることは、欲望全開。

 なのに、殺気と酷似した荒い気配が紗枝の周囲を漂い、感知した鳥たちが身の危険を感じて、一斉に飛び立つ。


 厚意に従い、紗枝は指示された方角へつま先を向けた。

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