途方にくれた息子

 魔王討伐するべく、人間たちは徒党を組み、一気にウー大陸へ攻め入ってきた。

 勇者と呼ばれる暗殺者が次々にやってきて、町は火の海になった。


 王都は魔族の人口が過密なので、もっと悲惨だ。

 崩落した外郭。

 赤く染まった川。

 燃える王城。


 囚われの身となったベルブは、姉と一緒に牢獄へ閉じ込められた。

 暗く、冷たい床の感触に何度も座る位置を変え、兵士がくると決まって姉が乱暴された。


 それでも、最後の力を振り絞って、姉は兵士にしがみ付き、ベルブを逃がした。魔力を封じる牢獄さえ出てしまえば、ベルブは逃げられる。


「早く逃げて!」


 悲痛な叫び声を背に、無我夢中でベルブは転送魔法を使った。

 こめかみが痛み、心臓が張り裂けそうな恐怖を押し殺し、予め転送の魔法陣を刻んでおいた、ナユタの森へ行きついたのだ。


 誰もいない森は、強大な魔力を持つベルブを歓迎した。

 だが、姉を置いてきてしまった罪悪感のせいで、途方に暮れる生活をすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る