9. 01-01

目を覚ますと、私は白い部屋にいた。


白い部屋。

いや、部屋というには大きすぎる。

広すぎる。

何処だろうこの広い部屋は。


宮殿。

直感的に私は今いる場所をそう感じた。

白い光が眩く宮殿。


「こんにちは、勇者様。気分はいかがですか?」

声がする。

私はその方向を向いてみた。

白いドレスを着た綺麗な女性が立っている。


「こんにちは、あなたは?」

私が質問すると、その女性は静かに微笑んだ。

「私はこの世界の女神シャウシャワ。勇者様の旅立ちに寄り添う者です」

その女性は白いドレスをはためかせてそう答えた。

とそこで私は気がつく。

「勇者?」

「ウフフ」

女神と名乗る女性は肩を揺らせる。

「あなたのことです、勇者様。他に誰がいるのです」

「私?」

「勇者様、あなたの名前を教えて下さい」

「私、チカ。御影チカといいます。ごめんなさい、ここは何処?」

「ここはケジュルウワ王国です。勇者チカ様。あなたはこの国を救うために異世界から転生されたのです」

「あの、」

私は言葉に詰まる。

この人が何を言っているか全く理解できない。


「勇者チカ様、あなたが冒険に旅立つ手助けをするために私はいます。

まだ起きたばかりで頭が混乱されてますね。

無理はなさらないでください。猶予はたくさんあるのですから」

猶予。

私はその言葉に引っかかった。

聞き覚えがある。

猶予、執行猶予。

そうだ、裁判はどうなったのだろう。

「ひとまず、お顔を洗いに行かれますか?それとも食事になされるのなら用意致しますよ」

裁判。

そう、私は被害者として証言して、タカシ君が。

いや、でも今はそれを考えたく無い。

それよりここは何処だろう。

そして私は自分の眼帯がなくなっていることに気付いた。

「あ、目が治ってる」

女神は私の挙動をやさしく見守っている。

それから私はゆっくり立ち上がって自分の服装を検める。

パジャマではなく、外出する時のワンピースを着ていた。

そうだ、思い出した。


「あっ」


「どうされました?チカ様」

「ここは病院?」

「いいえ、ここは私の城でございます。転生前のご記憶があるのですね。焦らずゆっくり整理してくださいませ」


私は、死んだ?


ここは、天国なのだろうか。


目が白い光に慣れてきて、周りの景色がはっきりしてくる。

白くてやわらかいシーツ。

白い石の床。

日の光が射し込む大きな窓

風で揺れている白いカーテン。


「白が好きなの?」

と唐突に私は口走る。

「ウフフ、面白い事をおっしゃいますね、チカ様。

そうですね考えてみると、私は白い色が好きかもしれません」


窓の外に見たことのない街が広がっている。

私はおぼつかない足取りで窓に近寄り、景色を眺めた。

「女神様?」

と私は聞く。

「はい、なんでしょう」

「私はこれからどうしたらいいの?」

「チカ様、あなたには使命があります」

気づくと女神は私の隣りに寄り添って立っていた。

彼女の表情には少し憂いがある。

「使命って?」

「今この世界は存亡の危機に瀕しています。

魔王ぺドラゴン。

魔物達を差し向け、人々を蹂躙し、この世界を恐怖によって支配しようとしている災いそのものです。

チカ様、あなたの使命はその魔王ぺドラゴンを闇に葬り去ることなのです」

女神は私の目を見つめる。

その目は真剣で、何か重大なことを物語っているようで、しかし相変わらず私は彼女の言葉が理解できない。

「私、少しまた横になってみる」

「はい」

女神は微笑む。


もう一度目を閉じて眠り、そして次に目が覚めたらもとの私の部屋に戻ってるかもしれない。

私はそう考えながら横になった。

しかし眠れそうにない。

瞼の裏で不安が大きく膨れていく。

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