3. 渇きと唾液

俺は今朝、会社である発見をした。



なんとなく、早くに目が覚めて、いつもよりだいぶ早い時間に出勤した俺は、

会社のビルの入り口で妙な音を聞いたのだ。

それはどうやらトランペットのような音だった。

(基本はこういうのに関わらないほうがいいのだが)

早朝でややテンションが高まってた俺は、音のする方に進んだ。

そして、地下の駐車場まで来たときに、音はピタリと止む。

と、同時に

一台だけポツンと停車する、ワイン色の軽自動車の中で

トランペットを構えていたK子と、俺の目が合ったのだ。


K子がジャズオタクだというのは、

社内でもまぁまぁ認知されていたが、まさかこんな時間、こんな場所で、

トランペットを吹いていたとは。

正直、俺はうらやましく思う。

(ただ演奏は、素人の俺でもわかる、ド下手くそだったが)


「いい趣味だね」と俺は彼女に話しかけた。

「いやぁ、恐縮です。T夫さんは今日は出勤早いんですね。」

「あ、なに、早く来ちゃいけない?」

「いえいえ!そんなことないです」


とかなんとかそんな会話を彼女とした。


ハッキリ書くが、今日はもう仕事どころじゃなかった。

家に帰った俺は、YouTubeでジャズを聴きまくった。というか今も聴いてる。

そういえば彼女が今朝吹いていたのは、「My Funny Valentine」という曲で、

ゆっくりとした曲なので、初心者の練習には丁度良いようだ。


あぁクソ、目がしょぼつく。目薬でも買おうか。

明日も朝が早いし。

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