第144話 嘘は言っていない
◆
「それで、この者たちをここに連れてきたという訳ね。 まったく、野良猫を拾ってくるかのように連れて来られても困るんだけどねぇ?」
斎藤博士は少しだけ困った表情をして頭を掻きながらそう言う。
しかしながら次の瞬間には嬉しそうな、まるで実験動物を見つけたような表情をしながら口を開く。
「でも、そうねぇ……これはこれで能力向上の薬を使った個体の、肉体の変化をじっくり調べる事ができるという事でもあるなっ!! …………とか少しも思っていないからな? 私は純粋に心配しているのだよ」
「博士、流石にそんな『新しい玩具を狩って貰った子供』のような表情をしながらそんな事を言った所で誰も信用しませんよ……。まったく」
そして、周囲の視線の冷たさに気付いた斎藤博士は、何とか軌道修正しようとするも中島助手が俺たちの代わりに突っ込んでくれる。
まぁ、間違いなく前者が本心である事は間違いないのだが、斎藤博士だからなぁと別段驚きはしない。
変態で変人だしな。
「おっと東城君。 君今私の顔を見て良からぬ事を考えていたね?」
「いえ、そんな事は思っておりませんが?」
「ではどんな事を思っていたんだい?」
そんな事を思っていると斎藤博士がウザがらみして来るではないか。
確かに心の中で変態だの変人だの思っていたし、実際に間違いないと思っているのだが、それを素直に言う程俺もバカではない。
もしそんな事を言うと色んな意味で面倒くさい事になるだろうし、そんな罠にハマる俺ではないのだ。
「そうですね、斎藤博士は素晴らしい博士で尊敬できるな……と」
「……ふむ、それで他には?」
「……普段お洒落をしないので気付きにくいですがプロポーションも良いですしちゃんとした服装をしてちゃんとメイクをしてちゃんと髪の毛の手入れなどもすれば物凄い美人になるなと。あと、まともな言動をすれさえいればな完璧だなと」
とりあえず嘘は言っていない。
ただ、その後に『でも斎藤博士は変態で変人だと既に気付いている俺には今さら繕った所でときめきも糞もなく、わざわざ地雷を踏みぬく事もないんですけどね』と続くだけである。
そして俺の言葉を聞いた中島助手は「ホントそうですよっ!! 東城君の言っている通りですっ!! というかまだ未成年の学生に言われてしまうという事がどれほど恥ずかしい事かしっっっっかりと自覚してくださいっ!!」と、俺に続いてここぞとばかりに追撃している。
その姿をみて普段の中島助手の苦労が窺えて来るというものである。
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