第130話 流星の如く現れた男性アイドル


 その光景はまるで悪の組織のボスと、そのボスに忠誠を誓う魔術師達のようである。


 しかし見るからに悪役であるこの者たちは、先にスレットと戦い負けかけていた魔術師達を救う為にやって来たのである。


 それだけでも驚愕なのだが、それ以上に視聴者を驚かせたのは黒の貴公子と呼ばれる男性魔術師へ跪いて頭を垂れていた三名もの女性魔術師達であった。


 この動画を見ている者達は『どうせ黒の貴公子様があのスレットを倒してくれるのでしょう? 今回の動画はどんなカッコイイ黒の貴公子のお姿が観えるのでしょうか?』という事しか思っていなかった事は、投稿された動画の画面に横から流れて来るコメントから容易に推測できる。


 因みに動画には『動画を見ただけで妊娠しちゃうっ!!』『あぁ、ヤバい、好き』『はぁはぁ』『キタァァァァ』『子宮が疼くぜ……』『婚姻届けは貰って来たし私の欄は埋めているぞっ!! 黒の貴公子様っ!!』などで埋め尽くされており、コメントを消さないと動画を見る事ができない程である。


「…………何これ?」


 その恐ろしい動画を見た俺がようやっと絞り出せた言葉であった。


「どうだ凄いだろうっ!! 今回は事前にいつどこで黒の貴公子様が現れるか分かっていたからバッチシ撮れているだろっ!! それに、私達の初陣でもあるからなっ!!」


 そして俺の絞り出した言葉に依鶴が『どうだ凄いだろうっ!!』と何故か自慢げに喋り出すではないか。


 違う、俺が聞きたかった事はそういう事ではないのだ。


 何故この動画を撮り、SNSで動画を配信したのかという事を聞きたかったのであり、ネットという広大な海に放り出された動画の良し悪しを聞いているのではないのだ──という事を聞いたところで依鶴からまともな返事が返ってくるとは思えないので、俺は聞き返す事を諦めた。


 そもそも依鶴の言葉からして『俺が喜んでくれる』と思っている事が伝わってくるので、まずその価値観を粉々に砕いて別の価値観を再構築しない限りはいくら聞いてもそもそも俺と依鶴とでは価値観が違う時点で無意味だろう。


「これは、新しい男性アイドル……それも既存のアイドルではまず真似する事ができない『現役魔術師達よりも強い男性』という唯一無二の武器を持っている流星の如く現れた男性アイドルとしての側面が強すぎた結果、本来女性が持っており現代では蓋をしていた乙女心をこれでもかと刺激された世の女性たちは東條様に夢中になるのも分かるわね……」


 そしてこの動画の盛り上がりを見て麗華が冷静に今のこの状態を分析し始める。

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