第108話 計画的な犯行


 取り敢えず聞きたい事は色々あるのだが、今はこの事だけは聞かなければならないと思い俺はある種の恐怖心を抱きながら麗華に『どうやって俺の家に入ったのか』を確認する。


「え? そんなの合鍵で入ったに決まっているわよ?」

「……そうか。 決まっているのか……」


 そして麗華はさも当然かのようにそう答えるではないか。


 その麗華の態度に一瞬だけ『そうか。 決まっているのならば仕方ないな』と認めそうになったのだが、流石にそんな訳がないので頭を振って思考を正常に戻す。


「それで、その合鍵はどうやって手に入れたんだ?」

「どうやってって……普通に模擬戦とかの時に鞄から東條様の家の鍵を取り出して紙粘土で型を取り鍵屋さんで作ってもらっただけよ?」


 麗華はさも日常の風景であり、まるで『そんな当たり前の事を聞いてくるなんて今日の東條様は少しおかしいわね』という雰囲気を醸し出しつつも『それが何か問題でも』という雰囲気も醸し出しながらこてんと可愛らしく小首をかしげながらしれっと犯罪行為を自白するではないか。


「……それ、普通に犯罪行為だろ?」

 

 ……ちっ、バレてしまったわね…………っ。


「うん? 今何か言ったか?」

「いえ、何も。 しかしながら作ってしまったものは仕方がないのでこのまま所持しておくわね。 何かあった時にすぐ駆けつけて家の中へ入れるのはメリットだと思うの」


 コイツ、ボソッと『ちっ、バレてしまったわね』って言わなかったか? 自分がやった事が悪い事だと知りつつ行った計画的な犯行ではなかろうか?


 しかしながら俺はそれを証明できる術が無いわけで……。


「あぁ、そういうメリットもあるかも知れないがデメリットの方がどう考えても大きいのでこの家の鍵は変えておこうと思う」

「……へ?」


 なので一番の解決策はこの家の鍵を変えておく事だろうと判断した俺はその旨を麗華に告げると、まるで捨てられた子犬のような表情になるではないか。


 その表情だけを見れば助けてあげたくなるのだが、騙されてはいけない。


 コイツは魔術師ランクAという、この世界でもかなり上位に位置する強さを持っているのだから。


 取り敢えず両親には手紙で鍵を変えた事を書いて新しい鍵を同封の上送り、行き違いが無いようにその旨を電話で伝えておくとしよう。


「まぁ、俺も麗華も思春期の男女である事は間違いない事だし、魔術師や軍がどうこう以前に思春期の男性の家に女性が入りびたるというのは世間体的にもよろしくないだろう?」

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