第82話 使えない神だな





 そこまで俺は匿名掲示板のレスを確認してそっとスマホを閉じると、疲れた目を揉む。


 そして今現在登校中。 耳をすませばこの掲示板と同じような内容の会話がそこかしこから聞こえて来る。


 何故こうなってしまったのか……。

 

 いや違う。


 こうなってしまう事は少し考えれば分かる事ではなかったか。


 俺が余りにも軽率過ぎた……。


 それでも、目の前で俺の事を気にしながら歩く氷室麗華やその麗華と同じパーティーメンバーである大槌千里や的場依鶴たちは俺があの時助けなければ間違いなく死んでいただろう。


 どこかの誰かが死ぬのは、悲しい事ではあるがそれだけである。


 しかしながら俺と関りがある、それも学校で毎日顔を合わせるような間柄である者を助けられたのに助けなかった事を考えれば、それでも俺の軽率な行動は間違っていなかったと思う──


 スマホに着信音が鳴ったので開いてみると『やぁやぁやぁっ! 最早私のズリネタの東城君っ!! 東城君用の新作魔術行使用媒体のプロトタイプが出来上がったから放課後でも取りに来てくれないかいっ!? 首を長くして……ではなくパンツを濡らして待っているぞっ!!』という連絡が来ているのを確認する。


──俺の軽率な行動は間違っていなかったと思いたい……。


 そんなこんなで何事も無く教室へつき、自分の席へと座る。


 やはりというか何というか聞こえて来る会話の話題はほぼすべて例の動画の件である。


 これ、あの動画に映っている男性が俺だとバレてしまったら死ぬほど面倒くさい事になりそうなのでは? それこそ、軍に仕えるのとどっちが大変であるかと聞かれると困るくらいには。


 せめて素顔を隠さず安心して近所のコンビニで買い物できるような普通の生活を、平穏な生活を送りたいと思うのは罪なのでしょうか?


 そう信じてもいない神に向かって胸の中で語りかけるも、当然神からの返事はない。


 使えない神だな、全く。


「はい、出席を取るぞーっ!! 席に着いていないものは今すぐに席に着けよーっ」


 そんな感じでこれからは極力身バレされないように行動しなければと気を引き締めていると担任教師である月上紅葉先生がやって来て出席を取り始める。


「おや、珍しい。 焔は休みか? だれか焔から何か連絡を貰った者はいないか? 先生も、学校側へは何も連絡来ていないから休みなのか遅刻なのか分からないんだ」

「すみません、何も分からないですね……」

「そうか、済まない。 それでは朝のホームルームを開くぞ」


 確かに、俺目線から見てもあの真面目一辺倒で氷室麗華と対を成す程には曲がった事と男性が嫌いな焔が無断で休むなど考えられないのでクラスメイト達は動揺したのか少しだけざわつき始める。

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