第72話 凝り固まった常識


「おうおう、威勢が良いのはかまわないんだが、まさか俺が撃たないとでも思われているのは心外だなぁ~っ。 俺は相手が男性であろうとも俺たちの思想を邪魔する者であれば容赦なく撃つぜぇ? このようになぁっ!!」


 そしてテロリストの男性は俺の腹に銃口を向けると、躊躇する事も無く撃ってくる。


 ここで躊躇しないあたりは称賛に値するのだが、相手の力量を見極める事ができないのは致命的であろう。


「恨むんなら女性たちの肩を持った自分を恨むんだなぁ」

「あ? 何もう終わったみたいな事を言ってんだよ。 勝手に終わらそうとしてんなよ」

「…………へ? な、……た、確かに腹を狙って撃った……そ、そうかっ! 貴様その服の下に防弾チョッキを仕込んでやがったなっ!! 卑怯なっ!!」

「卑怯だろうが何だろが最後に生き残っていた方が勝ちってのが殺し合いなんじゃねぇのか? あと、防弾チョッキなんか着る必要はねぇな。 そもそもお前たちは一つ大きな勘違いをしていないか?」

「か、勘違いだと……っ!?」


 とりあえずテロリストの男性は俺が防弾チョッキを着ていたと勘違いをしているみたいなので最後に種明かしをしてやる事にする。


 知らずに無力化され警察に引き渡され、死刑になるのは流石に可哀そうだからな。 冥途の土産に種明かしをしてやる俺の優しさである。


「あぁ、そうだ。 お前たちが今この町に張り巡らしている装置、確か『魔術行使用媒体アンチシステム』だったか? これを使えば魔術を行使できなくなるとでも思っているみたいだが、それは大きな勘違いだ」

「そ、そんな訳があるかっ!! 現にこの町にいる魔術師たち全員魔術を行使できていないではないかっ!!」

「ここまで言ってまだ分からないのか? 魔術師たちが使えないのは魔術行使用媒体であって魔術じゃぁねぇよ。 そしてお前が撃った銃弾を防いだのは俺が行使した結界魔術が防いでくれたという訳」


 そして、流石に口だけで言っても恐らくこのテロリストの男性には理解できないであろうから俺は魔術を行使する事にする。


 魔術を行使するには『魔術行使用媒体を使えなければ魔術を行使できない』という常識がある以上いくら口で説明してもその常識を壊さないと理解できないだろうし、であれば実際に魔術行使用媒体を使わずに魔術を行使してみせてその凝り固まった常識をぶち壊してやる方が手っ取り早いだろう。


 行使した魔術は【炎の魔術段位三・炎の槍】であり、俺が最も得意としている魔術を無詠唱で行使する。

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