第64話 話にならない



 それにしてもこのテロリストの男性は、どうやら俺の右ストレートはまぐれで当たったと思っているようである。


 もしここで、俺の右ストレートを当てられたのは必然であったと判断して、何らかの能力を使っていた可能性を考えられるだけの知能があったのならば、少しだけ面倒だなと思っていたところだったので、これは早く帰ってかいりきのチザードンを鑑賞できるなと一安心である。


 なんなら帰りにカードショップで観賞用のケースを購入して帰るだけの時間も確保できそうである。


 まぁ、こればかりは女尊男卑の価値観かつ魔力に関しては異世界と比べて技術も理解も遅れているから仕方のない事なのであろう。


 ならば、相手がこの事に感づく前に潰すのがセオリーだろう。


「まぐれだと思うんだったら、そう思っていれば良いんじゃねぇの? とりあえず次は俺から攻撃させてもらうか」

「俺は今まで格闘技を習って身体を鍛えてきたんだぞっ!! 明らかにこの俺よりも筋肉がついていない貧弱な身体のお前が格闘技を習っている筈もなければ、そんな素人が格闘技経験者であるこの俺にまぐれ以外で有効打を当てられるはずがないだろうがっ!!」

「だから、それはこれからお前の考えが正しいという事を証明してみればいいんじゃねぇの?」

「言われなくてもグホハァっ!?」


 相手はまだ何か言いかけていたのだが、俺は問答無用で相手の顔をぶん殴る。


「ひ、卑怯だろうが……っ!!」

「何がだ? ある意味これは殺し合いだろう? 卑怯もくそもないだろう。 それともなにか? 『僕は準備していないと戦えないから少し待って欲しいです』っていまから殺す相手に言って待ってもらっているのか?」

「ぐぬ……っ」

「まぁいいか。 これで後からまた卑怯だなんだといちゃもんつけられても鬱陶しいしな。 お前が良いと言うまで待ってやるよ」


 いくらなんでもテロ行為を行っているにも関わらず、意識が低すぎだろう。


 これが魔王により今日を生き延びるだけでも大変な世界と、魔王がおらずインフラも魔術師によって守られている世界で生きてきた危機感の違いなのだろう。


 はっきり言って考えが甘すぎるとしか思えない。


「ふ、ふざけんじゃねぇぞゴラァッ!!」


 さらに指摘するとするならば、自分の感情をコントロールすることが出来ずに怒りの感情に振り回されているようなレベルは論外だろう。


 話にならない。


 そんな事を思いながら俺は相手の攻撃を避けて再度相手の顔面に、カウンター気味に拳をめり込ませる。

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