第50話 演技である事は既に理解している


「あらあら、なんだか機嫌が悪いみたいなのだけれども、何かあったのかしらぁ~」

「いえ、何も……」

「…………本当に?」

「……っ」


 この生徒会長は、普段はぽわぽわしており、どこか抜けているように見えるのだが、それは仮の姿であり、演技である事は既に理解している。


 理解しているが故に、偶に素が出てくると思わず身構えてしまう。


「えぇ、本当ですわ」

「………………まっ、焔ちゃんがそう言うのならば私は深く詮索はしないわ~」


 そして枢木生徒会長はそういうと私から離れて行くではないか。


 恐らく、あの枢木生徒会長の雰囲気からして私が麗華の件で悩んでいる事を分かっていたのであろう。


 その上で、何も聞かずに去って行ってくれたのである。


 底が見えない恐ろしさがある一方で、こういう気配りができる所は有り難いと思ってしまう。


 そして、それと同時に私と枢木生徒会長との差を思い知らされるようですこしばかり鬱にもなる。


 しかしながら今はそんな事を思っている場合ではない。


 何処からともなく湧き続けているスレットを一匹でも多く倒して、このスタンピードを一秒でも早く終わらすことが私たちに課せられている任務の内容なのだから。


 そして日が暮れかけた時にようやっと私たちはスレットを借りつくしてスタンピードを終わらせることが出来たのであった。







「今日は長かったっすね、焔さん」


 スタンピードを終わらせ、疲れた足に鞭を打って一度学園へと戻る送迎車へと向かう。


 すると、私のチームの一員である犬塚環が私に話しかけてくる。


 この犬塚は私の一つ下の後輩であり、私を慕ってくれていることが伝わって来るのでこうして懐かれると苗字から連想できるイメージ通り、まるで柴犬に懐かれた感覚になる。


 ちなみに髪型はボーイッシュで、小学生であればわんぱく小僧と呼ばれていたであろう事が容易に窺える事ができる容姿をしておる、そして膝には絆創膏が貼られている確率が非常に高い。


「えぇ、今回のスタンピードはいつもよりもかなり長かったわね」

「んっ。 ……ここ最近、変」


 そして私と犬塚の会話に、同じく私たちのメンバーの一員である山梔子無音が加わってくる。


 この山梔子無音は普段は無口でありあまり喋らないのだが(頷いたりして意思疎通するのが基本)、その山梔子無音が喋るという事は、ここ最近のスレットの現れ方や現れたスレットの特徴や強さが今までと明らかに変わってきているのを感じているのであろう。


「えぇ、確かにここ最近は今までとは違う湧き方や、見たことない姿に攻撃方法のスレットが多いイメージがあるのは確かね……」

 

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