第34話 嫌な予感しかしない
そして私はその怒りの感情のまま持っていたコップを床に投げ捨てる。
こんな感情では朝食すらまともに食べる気が起きない。
「片付けておいて」
「……かしこまりました、お嬢様」
私は出された朝食を何とか全て食べ終えると日課の朝練の為実家地下にある修練場へと向かう。
本当ならば食欲が湧かないので朝食は取らずに朝練へ向かいたかったのだが、栄養士が考え作ってくれているメニューを食べる事は、完璧な肉体と集中力の維持率の低下という形でそのまま跳ね返ってくるので食べないという選択肢はない。
常に今私のベストを出せるようにする事は、一瞬の判断ミスや行動の遅れが死に直結する場合がある魔術師として当たり前の事なのだから当然であり、炎系魔術師の名家でもあるドミナリア家の長女としても当たり前の事でもある。
『炎の聖霊よ、我に敵を焼き尽くす力を与えなさい──カグツチ──』
そして修練場へと着いた私は詠唱をし、私専用の魔術行使用媒体を起動するのであった。
◆
あれから一日が経ち、麗華が鬱陶しいあまり斎藤博士の所に行ってしまったのは判断ミスだったような気がしてくる。
しかしながら俺の凡ミスで麗華に正体がバレてしまっている以上はとりあえずああするしかなかった気がするし、今のところあの日麗華たちを助けた人物が俺である事は他者にはバラさないでいてくれるとも言ってくれるので、俺の判断は間違っていなかったと思うしかない。
斎藤博士は軍の上層部にもバラさないとは言っていたのだが、どこまで信じて良いのか現段階では分からない。
である以上俺は『軍にバラされた』と仮定していつでも逃げれるように意識して生活をしていけば良いだろう。
最悪街を守っている外壁の外まで逃げれば追って来ないだろうし、俺ならば外壁の外でも十二分に暮らしていける自信がある。
日本という国のインフラや生活水準下での暮らしを手放すのは惜しいのだが、それで平穏が手に入るのであれば安いものであろう。
そんな事を思いながら制服に着替え朝食(バターを塗った食パンとホットコーヒー)を取る為にテーブルに着こうとしたその時、家のチャイムが鳴るではないか。
はっきりって、嫌な予感しかしない。
そもそも俺の住んでいるこの家のチャイムを鳴らすような者など新聞の申し込みかセールス位なもので、こんな朝っぱらから訪れるようなものではない。
では誰が訪れたのか。
普通に考えれば斎藤博士か麗華か誰かが軍に俺を売ったと考えるのが妥当であろう。
面倒くさい事になったなと思い俺は玄関へと向かう。
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