第101話 広島風
「ウチのバカ娘が面倒掛けて悪いな。」
凛樹とNo.2ヒーロー『ブルーエッジ』に拳骨を落とし気絶させた後、私の前にコーヒーとお菓子を置いた
私の憧れ、百道神娘様だ。
「い、いえ…確かに凛樹は無茶苦茶だし、バカだし、勝手だし好き放題だし…」
いいところを言おうと思ったけど、ダメなところしか出てこない。神娘様の表情も引き攣っている。
「でも…楽しいです。凛樹と一緒にいるのは楽しいです。」
中学入学以来ずっと一緒にいる親友。バカで破天荒で我儘で、それなのに誰からも愛され、皆を笑顔にする。そんな親友との学校生活は思い出すだけで自然と笑顔が漏れる。
「そうか…これからもバカ娘に振り回されるだろうが、頼むぞ。」
そう言って私の頭を撫でてくれる神娘様。なんだか天にも昇る心地だ。
「あ、でも…」
1つ大切なことを思い出して、私は頭を上げた。
「どうした?」
「凛樹は同じ高校にはいけないと思うんですけど…」
親友と私の学力の溝は、ちょっとやちょっとで埋められるものではない程、深い広いのだった。
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「神娘姉ぇ~。お好み焼きやのに麺がないんじゃけんど?」
台所から居間にいる神娘姉にそう声を掛ける。
「お好み焼きに麺はいらねぇだろうが。ったく、お前に任せたのが間違いだった。夕飯に間に合わねぇだろうが。」
そう言って俺に溜息を吐く神娘姉と、
「わ、私もお手伝いさせて下さい。」
凛樹と同じく制服を着た、2メートル近い身長の女がその後ろから現れた。
「なんでお好み焼きに麺がいんだよ。広島風じゃねぇんだぞ。」
呆れた様に言う神娘姉。
「…広島風じゃと?あっちが関西風じゃぁ!!なんで広島が外伝みたく言われないかんのじゃ!!」
神娘姉といえども許せない。
「知らねぇよ。お好み焼きがあの平べったいやつで、広島風が麺のやつだろうが!!」
「逆じゃぁ!!あっちが関西風でお好み焼きは麺が命なんじゃぁ!!」
「だから知らねぇっつってんだろうが。お好み焼きがどっちなんかどうでもいいんだよ。とにかくさっさと夕飯作らねぇと、乱鶯が帰ってきちゃうだろうが!!」
「乱鶯ならもうおるよ…」
俺の呟きに神娘は慌てて調理台に向かう。
「引っ掛かった〜。こっちの卵黄じゃけぇ~。」
ボウルに入って卵を指して笑う。
「テメェ…私の乱鶯を卵扱いすんじゃねぇ!!」
神娘姉の怒鳴り声と共に停電する。
あ、ヤバ…
「み、神娘姉…怒っちょる?」
「久しぶりに泣かせてやる…」
額に青筋を立てて笑う神娘姉。
十数年ぶりの本気の姉妹喧嘩が幕を開けた。
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「そもそも、お好み焼きってなんだよ!!もんじゃの方が旨いだろうが!!」
「あげなゲロみてぇなんよりお好み焼きのが上じゃ!!」
「巫山戯んなテメェ!!ゲロはテメェが吐くんだよ!!」
光の如き速さの拳の閃華。
台所はボロボロになり、隅で大きな身体を震わせ怯える凛樹の親友、加瀬大椰ちゃん。居間では気絶した凛樹とNo.2ヒーロー『ブルーエッジ』。岩穿と氷華は恐怖のあまり自室に籠もっている。
「なにこの状況…」
妻と義妹の姉妹喧嘩。それは分かるけど、内容がしょうもない癖に被害が甚大過ぎる。
「ちょっと!!ふたりともそこまで!!流石にヤバいから!!」
必死に仲裁に入る僕。本当にヤバい…主に自宅の修繕費が。
「五月蝿ぇんじゃ!!元はといえばお前が俺の神娘姉を奪ったんが悪いんじゃ!!」
義妹の拳が僕に向く。
「舞風、テメェ!!まだそんなこと言ってんのか!!」
その拳を掴み、床に叩きつける妻。
「神娘姉がプリン屋の嫁なんか嫌じゃ!!神娘姉は天を掴み、神を超えた俺の憧れなんじゃぁ!!こげな男、一生認めんけぇ!!」
涙ながらに叫ぶ義妹。その叫びは深々と僕の心に刺さった。
「そんな男のどこがいいんじゃ!!」
義妹の叫びに、妻は静かに答えた。
「乱鶯の強さを知らないお前には分かるまい…ベットの上では乱鶯は私より強い。」
ウットリと僕を見つめて言う神娘に、今夜も眠らせてもらえないのだと悟った。
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