第42話 赤点女王

「それで、なんでいるの?」

 そう僕は、食卓に座る2人を見ながら妻に問う。

「行く宛が無いし、金も無いというのだから仕方ないだろう…」

 そうバツの悪そうに言う妻。

 その言葉を聞き、申し訳なさそうにする女性と、容赦なく食卓に並ぶ食事を喰い漁る女の子。

「すみません…振り込みが予定通りにいかなくて…」

 そう平謝りするアイギスは、

「食うのやめろよ!!バカ娘!!」

 とクリスティンの頭を叩く。


「だって〜…お腹空いてるんだもん!!」

 叩かれた後頭部を撫でながら言うクリスティン。

「遠慮することを覚えろ、バカ娘!!」

 もう一度その頭をスパーン!と叩くアイギス。

「もう、好きにすればいいんじゃないですかね…?」

 そんな光景を見て、僕は溜息混じりにそう言った。

 


−−−−−−−−−−−−−−−−−


 

「ほ、補習とか…別に受けなくても大丈夫だし…」

 赤点のオンパレードで補習授業をサボっていた事実が発覚し、鍛錬場で正座している凛樹が、そう横を見ながら言う。

「大丈夫じゃないだろう…」

 俺の可愛い妹は、恐ろしく勉強が嫌いだ。そんなところも可愛いのだが、これは洒落にならない。

「バレたら母ちゃんブチ切れるぞ…」

 そう、俺が怒るとかそういう話ではない。

 我が家の支配者である母が元ヤン時代に戻ってしまう。その恐ろしさを知る俺は、妹にそう溜息混じりに言った。

「ヤダァ!!死んじゃうよ~!!」

 泣きじゃくる凛樹。

 妹もまた、母の恐ろしさを知る者である。というより、我が家族は全員知ってるし、知ってるから恐れるのだが…

「バレない様に補習受けるしかないだろ…」

「勉強ヤダァ~!!」

 我儘な妹はそう拗ねる。拗ねた顔も可愛いのだが、ここは心を鬼にして言う。

「駄目だ!!補習は絶対に受けろ!!本当に行ける高校無くなるぞ!!」

 悲しいかな、我が妹は進学さえ危うい。

 母の怒りと共にそれも怖かった。


「お兄のイジワル〜!!」

 翌朝、そう暴れる凛樹をふん縛り、学校まで運ぶ。

 俺の能力を使えば、移動時間事態は一瞬だ。

「ちゃんと補習受けるんだぞ?」

 そう言って教室に放り込む。

「ヤダっ!!」

 そう言って逃げ出そうとした凛樹の肩を、がっしりと掴む手。

「百道ぃ…お前だけの為に用意した補習を2日サボった気分はどうだ?」

 怒り心頭といった様子の教師から、絶対に逃さないという意志が見れる。

「さ、サボってないよ…忘れてただけだもん…」

 そう言う妹を獅子が千尋の谷から子を落とす気持ちで教師に預け、武生院に戻った。


「凛樹…頑張れよ。」

 そう苦肉の思いで涙を飲んだ俺のデバイスに、一件の通知が入る。

『凛樹は何処だ?』

 文面だけでブチ切れてるのが分かる母からの通知。

 2日もサボってれば、当然学校から連絡がいくか…

『学校』

 とだけ返し、天を見た。

 すまん凛樹。兄ちゃんお前を守れなかった。

 

 妹を待ち受ける地獄に対し、無力な俺はただ妹の無事を祈った。






 

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