第40話 将来の不安
よそ行きの顔でアルティメイターに接する我が妻、神娘。
ご近所さんや家庭訪問に来た先生方に接する時と同じ、本当の家庭内での姿とは異なる振る舞いを見せる神娘。
その声色も、表情も、言葉遣いも、正しく家を出たオカンの正しい対応なのだ。…返り血に塗れてなければ。
変色が漸く始まった鮮血に塗れ、そう振る舞う神娘は余りにも猟奇的で恐ろしく見えるだろう。(実際滅茶苦茶恐ろしい)
そんな神娘と普通に接するアルティメイター。流石No.1ヒーローだと、頷きながら神娘に濡らしたタオルを持って行く。
愛する妻を何時までも血塗れにしておくわけにはいかないからだ。
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血に塗れてもなお美しさを保つ美女。そんな彼女に濡れタオルを差し出す男。
こいつが彼女の夫か…
比較的顔は整っているが、年相応に老け、冴えないおっさんという印象しかない。
彼についても調べている。
百道乱鶯、ヒーローとしては先輩になるが、ランク付けすれば、俺とは月とスッポン程異なる底辺ヒーロー『プディングマン』実績も活躍も皆無で、殆ど引退したのと同じ存在で、本業は小さなプリン屋の店主。
甲斐性もなさそうな冴えない男がこんな美人を妻にしているのに、国内No.1ヒーローであり、そこそこ裕福な俺には妻どころか、彼女さえいないのだろう…
なんだか、泣きたくなってきた…
「どうか息子をお願い致します。」
そう返り血を拭い終え、頭を下げる百道神娘は、僅かに顔を上げ、ニッコリと笑う。四十路手前とは思えぬ老化を知らぬ彼女の美貌とスタイルに、見惚れていた俺。
しかし、内蔵が全て握り締められた様な感覚に一瞬襲われた。
それは、彼女が放った一瞬の殺気。
「まだ残ってたか…」
俺の真横を突き抜ける謎のビーム。
それを放った彼女の呟き。
背後で聞こえるヴィランの悲鳴。
綺麗な薔薇には棘がある。
そんな言葉があるが、触れる前に消し炭にする花は彼女くらいではないのだろうか?
もし、そうでないのなら、俺は一生1人でいいや。
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「モフ白最高〜!!」
凛樹ちゃんから渡されたデバイス。そこから出される問題に全て解答し終えた後、そう言って僕に抱き着く彼女。
「モフ白のおかげで宿題も終わったし、遊び放題〜!!」
ハイテンションで僕を撫でる凛樹ちゃん。
「宿題は自分でしようよ…」
撫でられながら、僕はそう呟く。
「細かいことは気にしないの!!」
そう言って僕を更に撫でくり回す凛樹ちゃん。
そんな彼女に少し不安を抱きながら、デバイスを触る。
「これは…」
学校から送られてくる成績表が表情された。
「っ!!ちょっと!!それ見ちゃ駄目!!」
慌てた様子で僕によじ登る凛樹ちゃん。その反動で僕の指が思わずデバイスに触れてしまった。
「いや…その…これは…」
バツの悪そうに僕の背中から言う凛樹ちゃん。
「これは…酷い…」
そこに表情されたデータに、僕は言葉を失う。
「赤点しかない…」
そう、合格点に届いている科目がゼロに近いのだ。
「ほ、保健体育と家庭科は赤点じゃないし…」
吹けない口笛を吹きながら言う彼女。
「しかも、赤点者の補習に出席する様に連絡まで来てる…」
日時はこの連休中。つまり、彼女は補習をサボっているということだ。
「このおバカ!!」
思わず僕は命の恩人を怒鳴っていた。
「バ、バカじゃねーしっ!!」
そう顔を赤くしながら叫ぶ命の恩人の将来が少し不安になった。
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