第39話 最強生物

「アルティメイターです。」

 返り血に染まる美人妻、百道神娘にそう言って一歩近付く。

 それが精一杯、溢れ出る圧倒的闘気(または殺気ともいう)に、一歩近付くことさえ死を感じる程だ。

「…アルティメイター?」

 少し考え込む様子で、彼女の闘気が収まる。

「浅学非才の身でありますが、息子さんの研修担当になるヒーローです。」

 そう頭を下げる。

「…あっ!!ぁああ〜!!こちらこそ、どうかウチのバカ息子をよろしくお願いします。ある程度鍛えていますので、至らぬ点が御座いましたら、容赦なく殴って貰って大丈夫ですので…」

 突如母の顔になり、声色も変わる百道神娘。

 …母さんも電話とか家庭訪問、三者面談の時だけ声のトーンが変わってたな…

 実家に居た頃を少し思い出した。母さん、元気かな?


「ウチのバカ息子をよろしくお願いします…」

 そう頭を下げる武生神娘。

「いえ、こちらこそ…」

 自分よりも遥かに強い存在に育てられ、鍛えられた少年。

 俺が教えることはあるのだろうか?

 桁違いの天才無能力者を前にして、No.1ヒーローである筈の俺には、彼女への恐怖と、その巨大な胸と異常に整い、老化を知らぬ顔に見惚れていた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「モフ白。」

 それが新しく僕に与えられた名前。

 格好良くもないし、深い意味もない、安直で捻りもない名前。

 でも、僕を拾い、救ってくれた2人が僕を生きてもいい存在と思ってつけた名前。

 その名前に不満などなかった。あるのは、モフ白という新しい生活への明るい気持ちだけ。

 ただ、1つ不安があるとすれば…


「母ちゃんにどう説明するんだよ…絶対にこいつぶち殺されるぞ。」

「だから、お兄も一緒にお願いしてよ~!!」

「光お兄ちゃんお願い…」

 そう兄、光さんに頼む凛樹ちゃんと氷華ちゃん。

「あの…母さんって何者なんですか?」

 恐る恐る僕は訊ねる。

 研究所からの追手を一瞬で氷漬けにした氷華ちゃんに、植物を自在に操る凛樹ちゃん。普通に考えれば、トップクラスのヒーローを凌駕する能力を持つ2人が恐れる母は何者なのだろう…


「「「「最強生物。」」」」

 4人の兄妹がその恐怖を思い出したのか、ガタガタと身体を震わせながら、全員から同じ解答が返ってきた。

「武生…百道神娘。それが、僕たちの母さん。」

 そう天井を見つめ呟くのは岩穿くん。

「武生神娘…」

 その名で全てを察した僕は、天井を見上げ、そう呟いた。

 

 最後に良い人たちに会えて良かった。

 凛樹ちゃん、氷華ちゃん…

 君たちに会えて、認め、守ってくれて、本当に嬉しかった。

 僕は悔いなく死ねる。

 そう心で呟いた。

 

 正義ヒーローでもヴィランでもない。

 でも、この世で最も強い無能力者。

 幸福感を感じながら、誰にも分からない様に、心で泣いた。






 

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