第26話 高燃費ヒーロー少女

「で、私になんの用だ?」

 そう頭を掻きながら言う武生神娘。

「大切なお話があって参りました。」

 機嫌をこれ以上損ねれば、私たちに生きて帰れる補償はない。

 そんな覚悟で頭を下げた直後、

 ぐぅ~〜、という腹の虫が鳴く音が聞こえた。

「ご、ごめん…エネルギー使い過ぎた…」

 そう頬を赤らめて言うクリスティンに、殺意が湧く。

 なにしてくれとんじゃ!!こっちとりゃ、命懸けの交渉しとんじゃ!!

 緊張感を掻き消す音を出した護衛対象に殺意が湧くのを抑えながら、交渉相手を見る。


「腹が空いては何も始まらんか…」

 笑いを堪えながら言う武生神娘に、事なきを得たこと知り、大きく息を吐き…


「なにしてんですかあんたは!!」

 守るべき護衛対象クリスティンを怒鳴った。



−−−−−−−−−−−−−−−−− 



「乱鶯、起きろ…」

 そんな声と共に、ソファに座り眠っていた身体を揺さぶられ、重たい瞼を開ける。

「ごめん、神娘…寝てた…」

 ぼんやりとした寝起きの頭でそう言いながら、大きな欠伸をした。

「疲れているとは思うが、栄養補給は大事だ。手抜きだが夕飯が出来ている。」

 そう僕の肩を優しく叩いた妻。

「ありがとう、神娘…」

 店を手伝いながら毎日3食作ってくれる最愛の妻に頭が下がる。


「それで、この人たちは誰?」

 夫婦2人きりの筈の食卓に座る2人の異国の女性。

 その存在を妻に問う。

「何やら分からんが、腹が減っているらしい。飯くらい食わせても構わんだろう?」

 そう言いながら大皿に盛った生姜焼きをテーブルに置く神娘。

「いや…そもそも誰?知らない人を家に上げたらダメでしょ…」

 偶に起こる妻の奇想天外な行動に、溜息が出る。

 そんな僕の言葉に、金髪碧眼の少女が反応した。

「私を知らないですって!!」

 ガタッ!と勢いよく立ち上がり、声を上げる。

「次期世界一位のヒーロー、レインボーミカをーーー」

「うるさいぞ。」

 少女が啖呵を切ろうとしたが、それを神娘が遮る。

「ご、ごめんなさい…」

 それだけで少女は顔を青くして大人しく席に座る。それと同時に萎縮し、生きた心地がしない顔で少女の隣に座る女性を見て、僕はとりあえずの現状を把握する。


 なるほど、上下関係は既に叩き込まれたらしい。

 

 しかし、海外のヒーロー少女と女性。

 なんの為にここに居るのか。それは分からなかった。

「あの…おかわりを…」

 大皿いっぱいの生姜焼きと、一升の米をほとんど1人で平らげたのに、ぐぅ~と腹の虫が鳴る少女。

 この事態に、流石の神娘も頭を抱えている。

 彼女について結局何も分からないけど?分かったことが1つある。彼女にはいち早くお帰り願いたいということだ。

 

 我が家の家計のために…

 


−−−−−−−−−−−−−−−−−



「おっきい…」

 氷華と共に辿り着いた、閑散とした寂れた公園で、氷華はそう呟いた。


 妹、氷華の友だち探しのお散歩に付き合っていた道中、特に収穫なく一休みということで公園に来た。

 連休中の昼間というのに人っ子1人いない忘れ去られた様な公園で、ベンチに座った私たちは、持って来ていた水筒を一口飲みぼんやりと園内を見ていた。

 至る所に穴の開いた地面に、破壊された遊具。

 あまりにも荒廃的なその場所に、以前何かしらの戦闘が起こったのだと悟る。

 氷華を遊ばせるにも手段のない場所に、長居する気はない。

 少しゆっくりしたら帰ろう。

 そう思っていた最中だった。


「なんかいる。」

 そう言って突然氷華がベンチから飛び降り、駆け出す。

「こら!!勝手に行かない!!」

 そう言って追いかける私。

 妹に追いついた先で頭を抱えた。

「おっきい…」

 そう呟く氷華の視線の先にいたのは、4、5メートルはあるモフモフの怪獣。

 大きな躰を隠す様に放置された生い茂った草木に蹲っていた。

「可愛い…」

 そんな怪獣に、氷華が抱き着いた。






 

 

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