第27話 モフモフ

「な、なんだお前!!」

 氷華に抱き着かれた怪獣が驚き暴れる。

「モフモフしてる。」

 何も考えていないのか、氷華は、自身の好奇心とモフモフへの欲求に忠実で、抱き着いたままだ。

「ああ…もう!!氷華、じっとしてなさいよ!!」

 そう言って周囲の草木を操る。

 氷華に当たらない様に草木で怪獣を縛る。

「お、お前たちはヒーロー?…違う!!僕は悪いことしてない!!」

 私の能力に怯えた様に叫ぶ怪獣。

「ヒーローじゃないよ。」

 そんなヒーローをモフりながら言う氷華。

「じゃあ、お前たちはなんなんだよぉ!!」

 泣き出す怪獣に、私は更に頭が痛くなった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 逃げた。

 痛いのはもう嫌だ。

 産まれた時から怪獣だった。

 長くボリュームのある真っ白な体毛と人の倍以上ある体長。能力者さえ圧倒する力。

 遺伝子操作で人の言葉が分かるし使える。計算だって出来る。

 それでも出来損ないと毎日痛めつけられた。

 感情があるから。


 優れた怪獣というのは、与えられた破壊衝動を忠実に行うことが出来る存在のことであるらしい。

 遺伝子操作で産まれた僕は、言葉を話せるし、考えることが出来るし、感情がある。

 僕を造った人たちにとって、人に近付いた僕は役に立たない怪獣だった。

 破壊衝動がなく、感情と理性で判断する僕は、役立たずの怪獣として、毎日痛いことをされながら、送り出される怪獣を見ていた。

 帰ってくる怪獣は半分もいない。ボロボロになって帰って来ても労いも治療もなく、また次の戦いに送られる怪獣たち。 

 そんな片端で日々痛めつけられ、感情を、考えを無くし本能のまま暴れろと言われる役立たず。それが僕。

 

 耐えられなかった。

 一瞬の隙を見て逃げ出した。

 命からがら逃げ延びたのに、逃げ出した社会では、怪獣が現れたと騒動になり、ヒーローが僕を退治しに来る。

 行先も、頼る先もなく、辿り着いた寂れた公園の隅、草木に隠れることが出来るそこに横たわった。

 

 そんな僕に、何かが抱き着いた。

 組織の追手?それともヒーロー?

 怪獣に産まれた僕は、世界の敵だと思われている。それでも、話せば分かって貰える、そう信じて裏切られ続けていたが、それでも誰か…

 そんな希望を抱いていた僕を縛る草木。

「お、お前たちはヒーロー?…違う!!僕は悪いことしてない!!」

 そう叫んだ僕に、背中から声が聞こえる。

「ヒーローじゃないよ。」

 僕の背中をよじ登り、肩から顔を出した。

 声とその姿で、幼い少女だと分かった。

 こんな子どもがヒーローということはない。

「モフモフして可愛い。」

 僕の毛並みを楽しみ、怪獣を恐れない…いや、僕を怪獣として見ていない少女に、初めて自分が存在していいのだと思えた。


「僕が怖くないの…」

 そう恐る恐るした質問に、少女は迷いなく答えた。

「怖くないよ?ママより怖い人いないもん。」

 そういって僕をモフる少女。

 怪獣より怖い母…少女がどんな生き方をしてきたのか分からないが、産まれて初めて嬉しいと思えた。



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「それで、どちら様?」

「レインボークリスを知らないですって!!…ヒーローの本場にして最高峰。アメリカのヒーローの中で最も有名で最も強いヒーロー、ワンマンコマンドーことジョニー・メイトリクスの娘にして、次期世界最強にして最高のヒーローたるレインボークリスがこの私よ!!」

 結局、米一升に備蓄品のカップ麺や保存食まで平らげた少女は、僕の質問にそう答えた。


「ワンマンコマンドー!!」

 ヒーローでその名を知らぬ者はいない。

「誰だそれ?」

 最強のヒーローの名に驚く僕に、神娘が袖を軽く引っ張りながら聞いてくる。

 ああ、そうだった…

 僕の妻はヒーローとかヴィランに一切興味の無い人だった。

「私とどっちが強い?」

 そう問う神娘の目は、グレにグレてたあの頃の目になっていた。







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