第25話 推し活
「本当に良かったのですか?」
最も信頼する部下の1人がそう俺に問う。
「良いも悪いも、これが最良の手だったのだから仕方あるまい。」
高層ビルの最上階にあるオフィス。その最奥、全面ガラス張りの執務室から外を見ながら答えた。
「娘の自惚れを正し、新しい母親を受け入れさせるには、最良の手だろう…」
手元には最近手がつけられない程我儘になってきた最愛の娘と、10年以上前に失った最愛の妻以外で初めて惚れた女性の映像が浮かんでいた。
「しかし、ボス、その人物が本当にアナタの言う程の実力者なら、クリスティンさん死んじゃうんじゃないですかね…」
「誰の娘と思っているんだ。」
そう言う部下に振り返り、堂々と言ってのける。
「失礼しました。」
そう言って納得した様に下がる部下。
彼が退室した瞬間、ドッ!!っと汗が吹き出る。
あれ、俺やらかした?
我が娘クリスティンは強い。しかし、それ以上に俺の方が強い。
そんな俺よりも強いのが惚れた相手。武生神娘。
「どうしよう…」
元世界一位のヒーロー、ワンマンコマンドーことジョニー・メイトリクス。
我儘に育ち過ぎた最愛の娘の更生と、中年となった今、巻き起こるセカンドラブ。
2つの目標は、早速頓挫しそうになっていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「申し訳御座いません。このへんでご勘弁いただけないでしょうか…」
自身の能力、『アンキーレの盾』を展開しながら、地上最強の存在に向き合う。
「ふん、子ども相手に本気になるわけがなかろう。」
そんな私に彼女はそう言って、『アンキーレの盾』を小突く。
それだけで全てが消し飛ぶ。
「生きているだけで奇跡ですね…」
泣きじゃくり抱き着くクリスティンを鬱陶しく思いながら、一瞬とはいえ向き合った相手の力に震えるしかなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「流石、アルティメイター!!」
「流石No.1ヒーロー!!」
あるヴィランとの戦いを終え、悠々と現場を後にする私に、市民は称賛を送る。
そんな尊敬と信頼の声に、やり甲斐を感じながらも、やはり納得いかないのだ。
「なんで甘い誘惑1つないんだよ!!」
私を褒め称える民衆は、ただ褒め称えるだけで、近付くことはなかった。
握手の1つもなく、ただ拍手だけで讃えられる功績。
他のトップヒーローたちといえば、黄色い歓声に包まれ、握手どころか粘膜を介した繋がりを持っているというのに…
1人トイレで不満を吐き出した。
「流石アルティメイター!!No.1にして、清廉潔白。完全無欠、理想のヒーローです。」
移動中の車内、私を褒め称える
いかがわしいスキャンダルが私の最も求めるものなのに…
「ただ、ヒーローとしての務めを果たしているだけだ。」
そう答えた私に、尊敬と憧憬の目を向ける相棒に、申し訳ない気持ちと同時に、怒りが宿る。
お前、この間彼女が出来たとかはしゃいでたよな…
そんな私の最近の楽しみは…
「そういえば、モッチーの新しい写真上がってましたよ。」
そう言ってデバイスを操作して画像を映し出す相棒。
「…モッチー?」
知らない振りをしているが、本当のところ滅茶苦茶大好きだし、なんなら、相棒が言う前にそれは確認済みだ。
「今度の研修生の妹、百道凛樹ことモッチーです。アルティメイターの指示で百道光の調査過程で妹の情報も出てきまして…わりと有名なインフルエンサーなんですが…」
「妹がいるのは知っていたが、そういうのは興味がなかったからな…」
チラチラと画像を見ながら相棒にそう答える。
やはり可愛いな、モッチー。
「ヒーローの使命以外に興味がないのは分かっていますが、時には息抜きも必要ですよ。」
そう言いながらも敬意を向ける相棒に、いたたまれない気持ちになる。
「しかし、羨ましいですよね。こんな可愛い妹がいるなんて…」
そう笑う相棒。
舐めんな、こっちとりゃ、羨ましいを通り越し、取って代わりたいんじゃ!!
そんな心の内を理性で殺し、相棒に言う。
「ヒーローに必要なのは、力と覚悟、何より不屈の正義だ。」
ごめん、嘘です。
仮に『ヒーローと私、どっちを選ぶの?』と素敵な女性に言われたら、目の前でヴィランが大暴れしていようと、喜んでヒーローを辞めるし、なんなら、正義よりも性戯の味方でありたいと私は思っている。
モッチーこと百道凛樹だって、百道光の調査過程で知ったが、ドハマリしてるし、なんなら既に御布施を入れている。
モッチーのNo.1御布施ヒーローは
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