第15話 武生院
「あらぁ~、百道さん。お宅が羨ましいわ~。ウチの旦那なんてーーー」
「4人もお子さんがいるのに、お若っくて羨ましいわぁ〜。」
夕飯の食材を買うだけで、こんなにも辱めを受けるのか…
おべっかを使いながら住宅街を足早に歩く。
「うぅぅっ…」
もう一人欲しい。
そう思ったのは私だし、悪いこととは思っていない。
しかし、何故か人の噂には尾ひれどころか羽がつき、大空を舞う程に飛躍する。
奥様方の言葉に耐え、家に帰った私は、買い物袋を置き、夫に言う。
「いっそ、街ごと消すか…」
「絶対にダメ!!」
そう呟いた私を、乱鶯は全力で止めた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「おぉ、よく来たな。」
僕たちを出迎える義父、
百道家の子どもたちにとって、5月の大型連休は、神娘の実家である武生院に預けられる日だ。
「おじいちゃん。」
「氷華ちゃ~ん、氷華ちゃんは可愛いのぉ~。」
孫娘を抱き締める史上最強の武術家、武生紅雪に、僕は挨拶する。
「お
結婚当初、義父とは不仲どころか、命を狙われる程だった(追っ手は全部神娘が片付けていた)が、孫となる光が誕生してから友好的な関係を築けており、凛樹、岩穿、氷華と、子が産まれる度に武生院のセキュリティは緩くなっていった。。
「ほほ、連休と言わず、一生預けても構わんのじゃが。」
殺気全開で笑う義父。
だが、僕だけ、今だ認められていない。
「キメェんだよ…クソジジィ…」
ファミリーカーの助手席から降りた妻が、そんな義父以上の殺気を放って言う。
「「「「「お嬢!!」」」」」
堅気とは思えない厳つい連中が隊列を組み、一斉に頭を垂れて神娘を出迎える。
そんな等の本人は、一瞬だけ姿を消し、
「なあ、
義弟の首を締めながら強面の隊列に再び現れる。
「おかえり!!姉さん!!…ごめんなさい!!死ぬ!!本当に死んじゃう!!」
僕は、哀れな義弟に心の中で手を合わせた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「やあ、久しぶり。
はは、と曲がってはいけない方向に曲がった首のまま、僕に挨拶をする義弟。
「日々強くなって、頼もしい限りさ。」
ははは、と笑ってそう答える。
「「はぁ~…」」
2人で同時に溜息を吐く。
「家業を押し付ける形になって、本当に申し訳ないと思ってる…」
武生院の時期当主は神娘の予定だった。それが嫁入りということで、全てを背負うこととなった義弟に謝罪する。
「謝られる筋はない、逆に、義兄さんには感謝してるよ。義兄のお陰で時代に合った…いや、違う、人を限界まで高める、本来の武生院に戻ることが出来た。」
当主として、由緒正しき武生院を守る義弟は首を元の位置に戻し、晴れやかな表情でそう言う。
それは、暗に神娘が当主に相応しくなかったと言っているのだが、僕もそう思う。
神娘は強い。それはもう、べらぼうに強い。
そんな強さに人は惹かれ、憧れるが、彼女になることは出来ない。
強さの頂きを目指すのが武術であり、神を超える強さを目指すものではないからだ。
「それに、義兄を本当に尊敬するよ。あんな化け物みたいな姉を貰ってくれたんだから。あんなのメスゴリラだよ!!」
ケラケラと笑う義弟から僕は目を逸らす。
彼の後ろに立つ、妻の姿が見えたから。
「ほぉ…素敵なお姉様を、そういう風に思っていたのか?」
ポン、と肩に手を置かれた義弟は、錆びついたブリキのおもちゃの様に、ギギギ、と首を動かす。
「ね、姉さん?…や、やだなぁ~、冗談だよ~…」
真っ青な顔に汗が吹き出ている義弟。
「神也…」
そんな義弟に、姉はニッコリと笑う。
「姉さん…」
姉の笑みを見た弟。
「すみませんでしたぁ!!マジ勘弁して下さい!!姉さんは世界一の姉さんです!!」
全力の土下座をした。
「心にもねぇことは、響かねぇんだよ…神也ぁ…」
そんな義弟の頭を踏む妻。
「悪かったなぁ、メスゴリラの姉さんで。テメェが言ったんだぜ?メスゴリラってなぁ…メスゴリラはメスゴリラらしく、テメェを痛みつけても、問題はねぇだろ?」
歩くトラウマ製造機である神娘が、悪魔の様に笑う姿に、義弟や僕だけでなく、武生院にいる全ての人間が、恐怖に震えた。
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