第14話 真の最強

 基本的に、男子高校生において大切なのは、如何に楽しく日常を生きるかに掛かっている。

 それは、如何にエロいことに遭遇するかという一点に集約される。


 ある土曜日、光のクラスメイトである同級生は、百道家の前に終結していた。

 

 ある者は、人妻との背徳的なエロ漫画みたいな展開に期待しながら…

 またある者は、さり気なく始まる年下のギャルとのエロ漫画的な展開に期待しながら。

 そして、決して触れてはならない青い果実、ロリっ娘からお兄ちゃんと呼ばれることを夢見て、鼻息を荒くする者たち。


 碌な連中がいなかった。


 男たちは、勇ましくインターホンを鳴らす。

「誰?」

 そんな男たちを、小首をかしげる幼女が出迎えてくれた。

「氷華、勝手に玄関開けるなってママに言われてたでしょ。」

 その後ろから、年下のギャルが現れる。

「で…アンタら誰?」

 警戒心全開の表情に、男たちの心が折れ掛かった。


「俺のダチだ。」

 現れた友人(友人とは言ってない)が救世主に見えた。

「ふ~ん、じゃあ、私たち部屋にいるから…絶対に近付かないでよ。」

 冷え切った目で妹を抱えて階段を上がるギャル。

 彼女の目は、正しくゴミを見る目だった。


「エロいママさんは?」

 部屋に押し込まれた俺たちは、一縷の望みを賭けて光にそう問う。

「仕事中。閉店まで戻らねぇぞ。」

 淡々と答える光に、皆がガックリと肩を落とす。

「帰るか…」

 何も得られなかった。いや、得られた。絶望感という、なんの望みもないものを…

「待てやゴミ共!!俺との約束を果たせや!!」

 光が何か言ってるが、対価が無いのだから約束は無効だ。


 帰ろう。そう思い皆が立ち上がった時、出前から見えるベランダ。そこに広がる楽園エデンを見つけた。

「鯉のぼり…最高の鯉のぼりだ…」

 風に揺れる洗濯物を見つめ、皆が手を合わせた。

「「「有り難ぇ…有り難ぇ…」」」 


 大型連休はもうすぐだ。


 

−−−−−−−−−−−−−−−−−



「り、凛樹?」

 クラスメイトが帰った後、妹に声を掛ける。

「キモ…」

 もはや目さえ合わせない妹は、そう言って妹を抱えて階段を降りて行く。

「あいつら、何しに来たんだよ!!」

 妹と仲直りどころか、更に険悪になった。


「氷華、お店手伝うよ。」

「うん。」

 可愛い妹は、恐ろしい母の待つ店舗に向かう。

「凛樹…?」

 意図的に俺が追えない場所に向かう妹に声を掛けるが、振り向きもしてくれない。

 

 悲しみに暮れる光だったが…

「冷めた目も可愛い…流石俺の妹。」


 手遅れだった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「百道のプリン、いかがですか~。」

 凛樹の客引きと、

「トロトロのプリン5個。」

 注文を取る氷華。2人による集客効果もあり、店は繁盛している。

 しているのだが…


「新渡戸の奥さんに樋口の奥さん…夏目に野口の奥さんもいるではないか…」

「あの…神娘さん?接客を…」

 肝心の妻は、バックヤードで震えていた。

「嫌だ!!」

 涙目になって答える神娘。妻に刻まれた傷は、思っていたより深いらしい。

 

 地上最強と称される妻でも勝てない奥様ネットワークが恐ろしくなった。




 

 

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