第9話 愛はいつだって
「パパ大丈夫?」
末っ子の氷華が、ボロボロになった僕に心配そうに言う。
「ふん、まだ殴り足りんわ!!この程度で許してやったことに感謝しろ!!」
僕が答えるよりも先に、不機嫌そうに立ち上がり、食器を片付ける妻。
夕食中、全く生きた心地がしなかった。それは、子どもたちも一緒だろう。
「パパ、ママと喧嘩したの?」
そんな中、いまいち状況の分かっていない氷華は、そう言う。
「喧嘩…って言っていいのかなぁ…」
死なない様に手加減してくれているとはいえ、一方的な虐殺に近いそれを喧嘩というのだろうか?
「パパ凄い、ママと喧嘩して生きてる。」
そんなこととは知らない氷華は、何故か尊敬の眼差しで僕を見る。
「何も誇ることはないんだよ。そもそも、喧嘩なんかしない方がいいんだから…」
そう、喧嘩なんかしない方がいい。命がいくつあっても足りない。
「ところで氷華、学校でお友達は出来たかい?」
怖い現実から逃避するように、入学したての次女に質問する。
「いないよ。」
当然、という様に返す娘に不安を覚える。
「そ、そうか…まあ、まだ入学して1週間くらいだし、直ぐに友達も出来るよ。」
そう励ます僕に、氷華は首を傾げながら少し考え、
「ん~…いらないかな。」
と結論を出していた。
「ほら、お風呂入るよ。」
そんないたたまれない空気の中、凛樹が氷華の手を取り風呂場に連れて行く。
「お姉ちゃんは友達いるの?」
手を引かれながら、氷華はそう姉に問う。
「いるよ。いた方がいいよ。」
そう淡々と返す凛樹に、氷華はもう1度考えていた。
「やっぱりいらないかな。」
末っ子の将来が心配でならなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「あのー、神娘さん?まだ怒ってます?」
氷華を寝かしつけ、寝室に入った妻に恐る恐る質問する。
「当たり前だ…」
ムスッとした表情でベットに腰を下ろす神娘。
「もう若くないとは分かっている…」
そう天井を見つめて溜息を漏らす妻。
「しかし、若く…昔のままでいたいと思うのが悪いのか?」
「神娘は今でも綺麗だ。」
そう答える僕は押し倒され、神娘が覆い被さる。
「ならば、何故最近は営みを避ける!!私に飽きたのだろう!!今日は久しぶりのデートだと思っていたのに!!」
派手な下着姿の妻の不機嫌な声に、僕は本当のことを伝える。
「疲れてただけです…最近忙しくて…」
そう、有り難いことにここ暫く店は繁盛していて、仕込みに接客にと大忙しで、ベットに入れば直ぐに睡魔に襲われていたのだ。
昔はヒーロー業にバイトと駆け回っても平気だったのに、やっぱり、老いには勝てないと思う今日此頃。
「いつだって神娘を愛してるよ。」
世界で一番強い彼女は、凄く乱暴だし、時折面倒くさいけど、それでも彼女以外に僕の妻はいないのだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「おはよう…あれママ、今日なんかツヤツヤしてる。」
起きて来た氷華が、母の姿を見てそう首を傾げる。
そんな妹の姿に、姉凛樹は気まずそうに目を逸らした。
「光を起こしてくる。」
そう言って、上機嫌に歩く母とは対照的に、ゲッソリとした僕を見て、氷華は更に首を傾げる。
「なんでパパは寝たのに疲れているの?」
寝たから疲れたんだよ。
そうは答えられず、曖昧で弱々しい、乾いた笑みだけで答える。
…娘よ、これが一仕事やり終えた、中年男性の姿だ。
「起きろクソガキ!!」
毎朝恒例の神娘の怒声が響く我が家。
今日も我が家は平常運転だ。
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