第6話 こいつ1人で完結する
氷華が誘拐されかけた。
同じく小学校に今年入学した妹は、正直、有り得ない程桁違いの能力を持っている。
大気中の水分どころか、原子や分子さえ自在に凍らせる絶対零度の支配者。
このまま成長を続ければ、トップヒーローとしての将来を確約された兄、光を凌駕するであろう妹が早速狙われたことに、岩穿は全く動揺しなかった。
母さんに鍛えられた兄や姉、そして妹たちがその辺のヴィランやヒーローに遅れを取ることはない。
その確信があるからだ。
「でも、明日からは一緒に登校した方がいいかな…」
ヒーローや警察から聴取を受ける妹を見て、そう思う。
能力もセンスもピカ一の氷華だが、それ以外に関しては正直ポンコツだ。
あれ程『知らない人について行くな』と教わったのに、挨拶したから知ってる人と思ってついて行くのだから。
今も支離滅裂なことを言ってヒーローや警察を困らせているであろう妹を教室から見守りながら、溜息を漏らす。
「ホント、羨ましい能力だけどさ…」
氷華が完全に能力を使いこなし、それに見合った戦い方を覚えた時、彼女に勝てる者は母を除いて存在しなくなる。
限りなくヴィラン寄りの能力を持った岩穿にとって、兄や姉、妹の能力は羨ましいものだった。
「性根ネジ曲がるよ、ホント…」
『岩を貫く信念も捻じ曲げる』そんな苦痛や幻想を相手に与える。
そんな拷問特化の能力を持つ岩穿は、華やかな兄妹を羨ましく思っていた。
「家業を継ぐのが一番かな…」
父の営むプリン屋を継ぐ、そんな道を考えながら岩穿は泣き出した妹を助ける為に教室を飛び出した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「助けてくれ!!ヒーロー!!」
この地域を管轄するヒーロー、フレイムマンは、初めての体験に戸惑っていた。
ヴィラン出現の通報を受けて現場に駆け付けたフレイムマンに助けを求め縋り付いたのは、そのヴィランだった。
「ヴィランを助ける仕事ではないのだが…」
戸惑うフレイムマンに、ヴィランは更に泣きつく。
「あんな化け物がいるなんて知らなかったんだ!!頼むよ、ヒーローだろ!!助けてくれよ!!」
「ヴィランだろ!!もっとしっかりしろよ!!」
何故か敵である筈の相手を励ます。ヒーローとしては、多少不利な状況の方がモチベーションは上がる。情けない敵の姿に、フレイムマンは思わずそんな叱責をしていた。
「全く、ヒーローとして治安維持は職務だからな…仕方ない。」
そう言って繁華街を見たフレイムマン。
「お次はヒーローか…少しは楽しませろよ…」
返り血に塗れた女が、殺気を放ちそう笑っていた。
「ごめん、無理。」
フレイムマンは全力で逃げた。
街の治安?そんなものは知らない。
あれは絶対に手を出してはいけない化け物だ。
フレイムマンのヒーローネームの通りに、爆炎を出して空に逃げる。
「逃げんじゃねぇよ…ヒーロー。正義は勝つんだろ?」
強烈な踵落としがフレイムマンを襲った。
意識が飛ぶまでの一瞬。フレイムマンはこの地域に配属された際に協会から言われた言葉を思い出した。
『ヒーローでも、ヴィランでもない、ただの一般人に注意しろ。』
苦虫を噛み潰した様な協会の御歴々の姿。
このことだったのか…
こいつがヒーローになれば、全て解決するんじゃない?
フレイムマンは意識が途切れる最中、そんなことを思った。
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