第5話 女に歳の話はNG

「悪いけど、好みじゃないのよ。」


 百道凛樹は、母譲りの美貌と同じく母譲りの中学生とは思えぬグラマラスなスタイルにより、彼女に魅了された男たちからの告白をあしらうのが日課となっていた。

 『樹木を操る』そんな能力と優れた容姿を持つ凛樹にとって、恐れる者は母のみ。

 学校では、女王の如く振る舞う彼女。


 そんな彼女だが、

「百道!!なんだその格好は!!」

 元来の黒髪を金色に染め、着崩して原型を留めていない制服、風紀を乱す立ち振舞い。彼女は、毎日生徒指導部に呼び出される問題児であった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



 毎日の子育て、偶には2人だけで出掛けるのも気晴らしになっていいだろう。

 そんな安易な考えで神娘を誘って街に出た僕は、若干後悔している。


「2人でゆっくりと歩くのは、随分と久しぶりだな。」

 そう言って僕の左腕を抱き締める様にして歩く神娘。

「もう若くないんだし、流石にそういうのは恥ずかしいなぁ…」

 僕も既に40を超え、神娘だって40手前なのだ。

「はぁ!?」

 軽率な発言だったと気付いたのは、左腕がねじ切れるのではないかという激痛と、不機嫌さ全開の声だった。

「あの…神娘さん…左腕がもげそうなんですが…」

 恐る恐る申し出る…ああダメだ。目がガチギレしてるもん。

「悪かったな、若くなくって!!どうせ私は四十路のババアだよっ!!」

 今朝の一悶着もあるが、最近、神娘は年齢に対して敏感になっている。そんな中で、僕の発言は、あまりにも軽率だった。

「神娘さんは今でもお若いと思いますよ…」

 ガタガタと震えながらそう言う。

「なあ、乱鶯よぉ…一度言った言葉は戻んねぇんだよ。」

 和風清楚な見た目からは想像出来ない、荒々しい言葉遣いと、溢れ出る殺気を放つ神娘。

 

 明日は臨時休業だな…

 左腕腕一本で済むといいなぁ…

 

 僕は覚悟を決めた目で空を仰いだ。 

 


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「か、怪獣だぁっ!!」

 平日の繁華街。人通りがそこそこあるその場が騒然とする。

 突如現れたヴィランと、そのヴィランが従える複数の怪獣や怪人。そんな脅威の出現に、人々は慌てた様子で逃げ出した。

「さて、この地域は『フレイムマン』の管轄区域だったな…」

 ヴィランはそう呟き、

「戦力的には我らが有利!!存分に暴れろ!!」

 高笑いするヴィランに、部下の戦闘員が駆け寄る。

「まだ逃げていない奴らがいたみたいです。」

 戦闘員の指す方向には一組の男女。恐らく夫婦だろう。

 何やら喧嘩している様子で、目の前の脅威である我々よりも、犬も食わないそれを優先しているのは気に入らない。

「ちょうどいい、人質にしてヒーロー共の動きを制約してやろう。」

 そう指示を出す。


 男女に襲い掛かる戦闘員と怪人、怪獣たち。


「邪魔じゃボケェっ!!」

 女が怒声と共に放ったビームが襲い掛かる彼らを一掃する。

「夫婦で大切な話してんだよ…消し炭にしてやろうか?あぁっ!!」

 ヴィランである筈の俺が恐怖に震える程の恫喝。

 なにこいつ…滅茶苦茶怖いんだけど…

「オメェらヴィランだな、ちょうどいい…ストレスが溜まってんだ…ちょっと殴らせろ。」

 ゆらっと一歩動くだけで空間が歪む程の殺気を放ちながら、ニタリと笑う女に、全身の震えが止まらなくなる。

「オラァ!!」

 先ず1人、身長は3メートルを超え、パワー系のトップヒーローとも正面から殴り合える超重力級の怪獣が、パンチ一発で跡形もなく消し飛んだ。

 消し炭にしてやろうか、そんな恫喝よりも恐ろしい現象が目の前で起こっていた。


「安心しな、痛みも苦しみもなく終わらせてやるよ。」

 ニッコリと笑う女の笑顔に、俺たちは一斉に逃げ出した。


 こいつ、ヴィランじゃないの?

 

 逃げる俺たちを1人、また1人と瞬間移動しながら消し飛ばす女にそんな感想を抱いた。




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