第4話 最強だけど割りと繊細
ママは強い。
水色のランドセルを背負いながら歩く百道家の次女氷華は、登校途中にヴィランに襲われていた。
小学校は鬼の住む地。
そう教わり、入学までに母から身を守る術を叩き込まれた。
氷華は『冷気を自在に操る』という、生まれ持った恵まれた能力を持っている。
それは、大気中の僅かな水分さえ凍らせ、一面を氷の世界に変えることが出来る。
そんな能力を使いこなす為に、小学校入学までの1年間、毎日母と戦っていた氷華。
「鬼って弱い…」
自分を誘拐しに来たヴィラン数名を氷漬けにし、遠い目で空を見ていた。
「鬼よりもママの方がずっと怖い…」
あの1年を思い出した氷華は、通報を受けたヒーローが到着した時、ピカピカの1年生にも関わらず、死んだ目で聴取にそう答えた。
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清楚でありながらも色気を放つ整った顔立ちに、膝まで伸びた艷やかな漆黒の髪に色白の肌、豊かに実る胸に引き締まった腰回りと安産型の臀部。
誰もが振り向く長身の美女。
そんな類稀な容姿の妻は、4人の子を産み、四十路に入る目前というのに、見た目は二十代後半でも通用する程に若々しい。
そんな妻は、気絶した光を部屋に放り込んだ後、ドカっと不機嫌そうに居間の椅子に座る。
「プリン!!」
そう一言言って、ムスッと膨れている。
「固い方がいい?」
立ち上がり、そう問う僕に、無言で小さく頷く。
「はい、固めのカラメルマシマシ。」
そう言って差し出す自家製プリンを受け取り、無言のままスプーンで一口掬い、口に運ぶ。
「光がクソババアって言ったぁ~!!」
涙を零し、泣きじゃくりながらプリンを食べる神娘。
「母ちゃん、母ちゃんって、あんなに引っ付いてきてたのに〜!!」
10年以上前の記憶の息子と現在反抗期の息子のギャップに、ショックを受ける姿に史上最強武術家の姿はなく、ただ一人の母であった。
「まあ、反抗期だから仕方ないし、神娘もやり過ぎだよ…」
こんなやりとりが毎日続いている。
「だって…ムカつくんだもん。」
グスグスと鼻をすすりながら言う神娘。
「私の可愛い光はどこへ行ったんだよ!!あんなクソガキに育てた覚えはない!!」
そう叫んだかと思うと、
「それでも可愛くて仕方ないんだよ~!!」
と机に付して泣き出す情緒不安定な妻を見ていた。
「そういう年頃だし、仕方ないんだよ…あと数年すれば分かる。そういうもんなんだよ…」
そう実体験を元に言う僕。こんなやりとりを毎朝している気がする。
偶には気晴らしも大事だ。
幸い、今日は店休日。
「神娘、今日は一緒に買い物でもしよう。」
そんな僕の提案に、神娘はパアッと顔を上げた。
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