第10話 若返ってる

 そして私はベッドに寝っ転がり横を向くと姿見が目に入って来る。


 その姿見はまるで高校生と見間違う程、遠くから鏡越しに見ても張りや肌艶があると分かる私によく似た人物がベッドで寝っ転がり、こちらを見つめていた。


「はぁーー……若いって良いわね」


 私の若い頃にそっくりな、鏡に映っている人物を見て最初に思った事は『あの頃に戻りたい』であった。


 元気があれば何でもできる。


 若い頃はその言葉にいまいちピンと来なかったのだが、四十歳を超えた今だからこそ痛い程分かる。


 元気があればなんでもできるのだ。


 恋愛もスポーツもあれもこれも、私が出来なかったもの全て。


 今の私にはもう、あの頃の様な無限に溢れ出て来る元気はもう無いに等しい。


 近所のコンビニへ行くだけでも息が切れるぐらいだ。


 しかしだからと言って運動する気力も湧いてこない。


 そして年齢と共にいろいろ失って行くのだ。


 そんな事を思いながら私は寝返りをうつと、鏡に映る若い頃の私に似た女の子も同じタイミングで寝返りをうつではないか。


「んーーーー…………いやいやいや、どんな魔法だよ」


 そして私は目を瞑り目頭を揉む。


 恐らく精神的にも肉体的に限界が近づいているせいで幻覚を見ているに違いない。


 きっとそうだ。そうに違いない。


 ここは一度精神を落ち着かせる為にも深呼吸一回。


 よし。


 そして私は姿勢を正してベッドの上で正座をすると意を決して目を開き姿見へと今一度視線を向ける。


 するとそこにはやはりというか何というか、若い姿の私に似た女の子がベッドにちょこんと座っていた。


 右手を上げる。


 鏡に映る女の子は左手を上げる。


 右手を下げ左手を上げる。


 鏡に映る女の子は左手を下げ右手を上げる。


 両手で手を振ってみると、鏡に映る女の子も同じように手を振ってくれる。


「………………………………………………………………………………若返ってるぅぅぅぅううううっっ!!??」


 そして今の状況を脳が理解するまでに数十秒間かかり、そして私はようやっと鏡に映る女の子が自分の姿を映しているのだと理解する。


 いやいやそんなバカな、どこのSF漫画だよ。


 と、思うのだが今私が置かれている状況を考えてみると若返る事の一つや二つくらいあってもなんら不思議ではない。


 むしろ若返る事よりもゲームのNPCキャラクター達が存在する事の方があり得ないのだから。


 そして私は手を見る。


 血管が浮かんでいない綺麗な手の甲が見える。


 袖を捲る。


 そこにはぴちぴちの肌。


 ほっぺたをつついてみる。


 もっちりとした触感、しかしながら確かにある力強い弾力。

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