第8話 人間辞めてなければ
そして俺はスイの首に腕を絡めて引き寄せるとその青く輝く長い髪の毛をクシャクシャと乱暴に撫でる。
「それに今度産まれるスイの子供と奥さんの為にも生きて帰さなければならないからな」
「なっ!? ちょっと、やめてくださいよアイク隊長っ!!」
「しかしあのスイが綺麗な嫁さん娶って子供まで出来るたぁ俺も隊長も歳を取る訳だな。出会った当初はちんちくりんだったスイがなぁ」
「もう、その話何度目ですかっ!ホーク副隊長っ!! そもそも何年前の話だと思っているんですかっ!? 六年前ですよっ!? 六年前っ!!」
なんだかんだで俺は部下に助けられてなんとか隊長として振る舞えることが出来る半人前であると思ったのだが、だからこそ自慢の部下の為に少しでも隊長らしくいようと、何度目かになる誓いを胸に秘めるのであった。
◆
大変な目にあった。
本当、この歳で慣れない事はするべきでは無いと私は痛感する。
「良い演説でしたっ!」
「心に刺さりましたっ!」
「これからは嫌な事があっても先程の演説を思い出しますっ!」
「流石ミサト様。全てにおいて完璧です」
「最早先程の演説で世界中の異性はミサト様の虜間違いなしですっ!」
「むしろ世界征服が出来そうですねっ!」
「控えめに言って神です」
そして何とか無難に演説という名の高難易度ミッションをクリアしてバルコニーから帰ってくるや否やメイド達七名から褒め称えられる。
しかしながら自分でも先程の演説の内容はが会社の理念をほぼそのまま言っただけに過ぎず、恥ずかしいやら申し訳ないやらで、むしろ逆に褒められれば褒められる程心が痛くなる。
因みに演説の内容は【全は一を一は全の為に】【我ら独自の価値を見出し強みとして活かす】【安全第一】といった内容について訳一時間程述べたくらいで別段コレといって褒められるような事は何一つ言っていない。
勿論、言葉一つ一つは良い言葉である事は間違ないのだが、それはその言葉を最初に言った人が凄いのであって、そのまま丸パクリして使った私が凄い訳ではない。
「うん、ありがとう」
しかし、しかしである。
彼女達、または他のCPUキャラクター達が本当に私がプレイしていたゲームのキャラクター達であったのならば、それこそ息をするように人一人くらい殺せるのでは無いか? いや、殺せるに違いない。
そもそもゲームのような世界であってゲームではないとして、私はいくらゲームの様に強くなっているとしてもいち人間である事には変わりないのである………多分、人間辞めてなければだけれども。
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