第5話 現実逃避
今までの年月がまるで走馬灯の様に脳裏に映し出されている。
ようやっとだ。
ようやっと皇女様が表舞台へと戻ってくる。
そして私は娘の手を握りながら、気がつけば涙を流していた。
◆
「は?……い、今何と……言った?イプシロン」
今現在私はイプシロンの一言により一気に全身から脂汗が出始め、喉が渇き始める。
いやそんなバカな。
「これから四時間後にて天空城の住民達へ主様のお目覚めを知らしめる為にも庶民達への謁見用のバルコニーにて演説を行なって貰います」
単なる聞き間違いだと一縷の望みを胸に今一度聞いてみるのだが、そんな私の気持ちなど知る由もないイプシロンは思わず惚れてしまいそうな程美しい笑顔で再度私へと、先程と同じ事を言うではないか。
「いきなり演説とか言われても何を言って良いかも分からなければ話す内容も何も無いんだけど?」
そもそも私は先程死んだと思ったらこの、ゲームに酷似した世界で生きている訳で、まだその事を飲み込み切れていないのだ。
そこへいきなり演説だ何だと言われてもどだい無理無理のカタツムリである。
まぁ、例えシラフの状態だったとしても急過ぎて無理なのには変わりないのだが、逆に言えばただでさえ無理な事なのに状況もこの状況では出来るわけが無い。
「えっと、それって私じゃ無いとダメなの……かな? こんなおばさんなんかよりも他に適任な人物がいると思うんだけれども?」
「そんな事はありませんっ! 我が主様であり、この帝国の皇女殿下様であるタカヤナギ・ミサト様以外あり得ませんっ!! それに、主様のお言葉ならば例え何を言っても皆その声を聞けるだけで、その在りし日と変わらぬそのお姿を見せるだけで、我々には十分でございますっ!! むしろ十分過ぎると言っても過言では無いでしょうっ!!」
どうやらあり得ないらしいし。
しかしながら、いくらなんでも私は過言だと思うなー。
私は、単なる独身独り身OLであり社畜という社会歯車の一つでしか無いのだから。
そして私は「そういえばハンネ考えるの面倒だしプレイ当初は軽い気持ちで始めた為本名で登録したんだったんだなー。思い出したわー。あの時はまさかここまでハマるとは思わなかったからなぁー。ここまでハマると知っていたらしっかりとハンネも考えたのになー」と現実逃避をし始めるのであった。
◆
「ささ、ミサト皇女陛下様、お風呂入りますよー」
「マッサージも致しましょう」
「ドレスはこれが似合うかしら?」
「いえいえ私は、ミサト皇女陛下にはコレが似合うと思います」
「何着ても似合うから迷います」
「お化粧は、元々の美しいお顔を隠したく無いので薄めで行きましょう」
「アクセサリーはどれにしましょうか?」
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