第27話 聖女襲われる② ミュゼァ視点
深夜、基本的に慌てる姿を見せないララがネグリジェのまま俺の屋敷に来た。
ララのことは屋敷の者ならばみんな知っているから取り急ぎ応接室に通すことになった。ダンスパーティーの後、美麗の様子ががおかしかったけど深く追わない方がいいと今日は見送った。胸騒ぎがして、本当はそのまま離れない方がいいと思った。
ララの様子を見る限り、俺の予想は的中しているんだなって話を聞かなくても想像できてしまった。
「夜分に申し訳ございません」
俺が部屋に入るとララは用意された紅茶には手をつけておらず、その場に土下座をした。
「わたしが着いていながら賊に入られてしまいました」
「美麗様は無事なのか」
俺もソファーに座らずに土下座しているララの元にいく。
顔を上げたララ顔は泣きそうだった。
「
と言いララの方に触れ、転移魔法を発動させる。勝手に美麗の使っている寝室に入るのは申し訳なかったが、ララに触れた瞬間、寝室で何かがあったと読み取れたので、寝室に飛んだ。
寝室に飛ぶと横たわっている男と、窓際に短剣が一本落ちていた。ベッドは乱れ、ララは座り込んだまま顔を覆う。
「わたしが気がついた時にはもう男は倒れていて、何も気が付かなかったんです。美麗様に男に近づかないでと言ったら怯えた様子で“違うの、殺そうとしたわけじゃない”って言われて足元が光って、姿を消しました。多分あれは転移魔法だと思います。どこに移動したのか分からなくて、ミュゼァ様のところに急いで行きました」
「今日のダンスパーティーで様子がおかしかったんだ。俺がしっかり見ておけば良かったんだ」
ララは珍しく泣き続けていた。
そう言いながら男に触れる。記憶を読んで見ると
顔は見れないけど、声は聞くことができた。聞いたことある声が、聖女が使えないと言っている。
「この間の魔物
美麗が魔物に飲まれた様子を見て、その場にいる者だけの秘密にしようということになった。帰ってくる時に空を飛んでいて国民は喜んでいた。それに水をさす必要はないと思ったからだ。
美麗は
ちゃんと力の使い方がわからなければ今みたいになるほどに。
「――ん?」
男は美麗を刺した後に闇に隠れられるように街に馴染む格好をしていたみたいだが。いや、その前の記憶に……。
「ララ、安心しろ」
俺は男に手を合わせ、連絡ようの鳥を作り出しオズワルドに連絡をとる。男が持ってきた短剣にも触れ、情報を確認する。
「ミュゼァ様早く美麗様のところに行かないと」
溢れ出る涙を拭うララは、ミークのところで暗殺を中心に教え込まれている人間だ。心を面に出さないように生きていたはずなのにいつの間にか美麗に心を許していたみたいだ。
「この男はすでに死んでいた。
「闇魔法って魔王とか、魔物が使うものじゃないですか」
人間は使えないとされている魔法の一つで、もし魔の力に飲まれた場合は人間として生きて帰れる保証はないと言われている代物だ。
「美麗様は人殺しをしていない。ラヴァがこの男を操っていた。【
ララはその言葉に立ち上がる。ミークの元で今まで仕事をしていたか面識があるのは当然だろう。
「そんな、ラヴァ様が悪に手を染めるはずありません」
「聖女の代わりになる人物を見つけたらしい。今の聖女が召喚されてから中々お披露目されていなかったから自ら見つけたって。自分にとって都合の良い
悪いのラヴァ。聖女を傀儡にして自分の力を誇示したいのか。
「そんな、ラヴァ様は国のために神官になって……」
親交があっただけショックが大きかったみたいだ。普段の冷静なララからは想像がつかなくなっている。この状況の人間を一緒に連れて行っても多分足手纏いになるだけだ。
「ララ、お前はここに残ってくれ」
「いえ、わたしが今回、何もできなくて美麗様を危険に
忠誠心の強さはとても気に入っている。元々ミークが拾ってきた孤児で、俺にも
「ララには重要任務を与えるんだ」
もったいぶりながら、転移魔法を男の周囲に広げる。戻ってきて男がまだいたら美麗はきっと落ち込むだろう。美麗は人殺しではない。むしろ死体を動かしていた奴が悪い。
「美麗様を取り戻す以外に、重要任務があるはずありません」
立ち上がるララ。先ほどの涙の後はもうない。
「君にしか頼めないんだ。美麗様が帰ってきた時にゆっくりできるように、風呂の用意と、お腹が空いていてもいいように軽食も用意しておいてくれないか?」
自分が人を殺したと思っている建物に戻ってきたいと思わないかもしれない。それより俺が彼女を説得できる自信がない。
「あぁもう、聖女の子供‼︎」
窓側が一瞬暗くなると同時に少し幼さの残る声がする。風が部屋の中に入ってきて、髪が揺れる。
ララがやってきた聖龍の姿を見てその場に頭をたれる。
「聖龍どうした?というか俺の名前は聖女の子供じゃない」
今の聖女は美麗だから他の人間が聞いたら勘違いをしかねない。母さんのことを怖がっていたイメージが強く、俺の名前を呼んだことはない気がしてきた。
窓から入って来られないから、ベルコニーから不機嫌そうに俺のことを睨む。一瞬ララに視線を向けたがそれだけで、何かを言うつもりはないみたいだ。
「君の名前を正直知らない。それよりもボクの聖女様が大変なんだ。力を貸して。ボクだけじゃ何もできない」
先日の聖龍の
「俺の名前はミュゼァだ。美麗様がどこかに行ってしまったんだが、場所を知っているんだな」
「うん。森の奥に邪気の溜まり場ができているの知ってるでしょ?この間他の聖女が来てたのボクちゃんと気がついているんだからね」
チラリと睨みを利かす聖龍。火を吐けばとても迫力が増すのになと、思ってしまった。
俺は聖龍のいる窓の方に近づく。このまま聖龍がいればララはきっとお辞儀をしたままだろう。
「ララ、早くお願いしたことをしてきてくれないか?」
防犯上と美麗の護衛をつけていなかったのが間違いだったかもしれない。何かあれば俺がすぐに飛んで来られるように段取りは組んでいたが、結局侵入者を許してしまった。ララが自分のことを責めていたが、大半の理由は俺とオズワルドにある。歴代の聖女が使用していた場所と言うこともあって、守りの結界はちゃんとしていた。そのせいで油断をしていた。
使われていた人間が神官にいた者で、恐らく体に残った魔力なども関係して寝室に忍び込めたんだろう。護衛に気が付かれないように、別に結界が張られた気配だけが残っている。
振り返るとララがゆっくりと顔を上げる。
窓際に来た俺に、首を伸ばした聖龍が服を引っ張る。
「聖女様を早く迎えに行こう」
「また、背に乗せてくれるのか」
ララはひっそりとお辞儀をして部屋を出ていく。短剣と、男はオズワルドの元に送ったからあいつはあいつでやってくれるだろう。
念の為俺が男から見た記憶を伝達できるよう、鳥を送った。
近くにいたのに美麗の悲しみに気づいてやれなかった。
ごめん、今助けに行くから。
俺は聖龍の背に飛び乗った。
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