第14話 聖龍は肉食でしたか?!?!?
ふわふわと宙を浮かぶ感覚で、目を開けるとそこは、肉食獣の腹の中・・・。のはずなのに、何もなかった。
記憶がなくなる寸前を思い出して、私は慌ててその場で叫び声を上げる。
「ぇぇぇーちょっと早く出して」
主人と認めると言ったそばから、聖龍に飲み込まれてしまった。
飲み込まれたはずなのにそこは、白く輝く、何もない場所だった。
「出してよ、私は自分の力を使いこなせるようにならないといけないんだから」
誰も私を責めない環境が逆に辛くて。どうせなら、私のことを罵って欲しくて。
「ボクの体の中で、魔力を感じて、聖女様。流れを。大丈夫。僕が力を貸すから、怖がらないで」
ポコポコと床を叩いていたら、優しい男の子の声。先ほど聞いた、聖龍の声だった。
「えっと、・・・」
私は早く出してもらいたくて、暴れていたのに、どうしようかと思っていると、足元から、何かが流れ込んで来る感覚がある。
ミュゼァの物とは違う、清らかで温かくて、私を包み込んでくれる力。
「私が力を使いこなせていないから、一人で戦ってるのよね」
聖獣と聖女にしか、この世界の邪気を祓う力は無いと言っていた。教会は存在はしていても、本当の意味で払うことはできず、押さえつけるのがやっとだと、この世界を勉強して教えてもらった。
「大丈夫。ボク達はそのために神様から力を与えられたんだ。ボクたちが世界に対してやらなければならない宿命。人族の人にも手伝ってもらうのも約束の一つ」
「そうだったの」
異世界から来た私にも優しい世界。先代の遺言があったからかもしれないけど、本当に力のある人間が来るとは限らないのに、上手く力を使いこなせていないのに、厄介者扱いをせずに、優しくしてくれる。
どうせなら、罵ってもらった方が私は気が楽なのに。
世界に呼んだ理由を早く全うしろと。
「ボクのせいだ、ごめんね。故郷から離れ離れにさせてしまって」
「大丈夫。私はここで頑張っていくって決めたの」
頑張りたくても、必要とされている意味もわかっていても、発揮できない聖女としての力。邪気を払い、人々に安寧を与える役目。
「分かった。君の覚悟は受け取ったよ。悠長なこと言ってられないってことだよね?一気に魔力を流すから、その流れを覚えて。一緒に世界を守っていこう」
「頼りにならない聖女で、嫌じゃないの?」
一気に力を流すとか、少しスパルタな予感がしたけど、大丈夫かな。
「違うよ。ボクは前の聖女様には頼ってばっかりだったから」
悲しそうな声に、私は自分が聖龍の力になれているのか不安になってきた。
「私、頑張るから」
「聖女様が居てくれるだけで国を護る結界が安定しているんだ、慌てないで。ボクが聖女様を支えるから」
「それじゃ、私がここに居場所が無いじゃない!!」
ただ不安だった。夢なら良かったのにって思って。新しく勤め始めたところで頑張って働いてみたかった。
異界の聖女なんて、夢を見過ぎている。
平凡で何の特徴も無い私が、誰かのためになれるのか、不安しかない。
「闇に呑まれないで、必要のない人なんて、いないんだから」
「私じゃなくてもいいじゃないのって、不安なの」
ただ、タイミングが悪くて、この国の人間で力のある人が生まれないだけ。少し待てば出て来るんじゃないかって思ってしまって。
本物が現れたら、私はお払い箱。繋ぎの人間なんじゃないかって、考えてしまう。
「ボクは聖女様が良い。美麗。ボクの聖女様。ボクは君が必要なんだ。他の誰でもない美麗だから選んだんだ。聖龍としてまだ未熟なボクを許して」
私はいつの間にか、ポロポロと涙を流していた。この世界に来たときは泣かなかったのに。不安な毎日を過ごしていたけど、それでも耐えてきたのに。
誰にも見られていないと思ったからか、感情が爆発する。
「国をちゃんと守ってるじゃない」
「ボク一人じゃ限界があるんだ。慌てなくていいから、少しずつ壁を越えて、国を、世界を守っていこう」
「力が使えない聖女のが居たって邪魔なだけでしょ。私を殺して早く次の聖女を連れてきた方が楽なんじゃないの」
ララが実は私のことを暗殺するんじゃないかって不安だった。ミークは孫のように私を可愛がってくれるけど、それもいつまで続くのか分からない。使い道がなければ、世界が滅びてしまうのなら、その前に、手を打たなければ……。
「あぁもう、美麗は頑固者なんだから」
パァっと目の前が光るとそこに、白銀の髪で、金眼の男の子が現れる。年は十歳くらいだろうか。大きな瞳がとても可愛らしい。
「ボクは美麗が良くて、そのために君を飲み込んだのに、分からず屋」
「だって、みんなが優しすぎるんだもの」
「それは美麗が優しいからだ。どうしてボクの言葉が信じられないの。初めから歩ける人間なんていない。美麗は美麗のペースで聖女になっていけばいいんだ」
「だって、私の元いた世界には魔法なんて無かったから、体の中に何かふわふわする暖かい力が流れ込んできたからって、直ぐに使えるわけないじゃない」
ミュゼァが力を流してくれるおかげで、自分の中にも「何かがある」のは自覚したけど。それだけ。それ以上は何もわからない。
不完全燃焼している感覚はある。吐きたくても、吐き出せない感じ。
「魔法が、ない世界だったの」
「そうよ」
代わりに科学が発達していたと言っても信じてもらえないかもしれないけど。
私の言葉に聖龍はパァっと笑顔になった。
「きっと、力を使えないのはそれが理由だ。君の世界では魔法って概念は無かったの?」
「あったけど」
私が大好きだったのは、魔法少女が魔法ステッキを持って戦ったり、魔法使いと言ったら、杖だ。それくらいしか思いつかない。
「私の元居た世界で魔法は無かったけど、魔法を使う時に杖を使うイメージはあったわ」
「それだ!聖女様が魔法を使うイメージをしやすい物を使おう」
「作り出す??」
そんな事でいいのかな。だって、実際に魔法が実在した訳じゃない。ファンタジーの中での魔法のイメージなのだ。
「初めて作るのは多分大変だろうから、ボクも協力する」
「ありがとう。でもそう言うのでいいの?」
「大丈夫だよ。杖とかだと何かアクシデントがあると魔法が使えなくなっちゃからあまり使っている人が居ないだけで、全くゼロじゃないらしいって、聞いたことあるし!!」
ミュゼァは、杖の話なんか一つもしてくれなかった。彼は天才だから、私みたいな悩みはなかったのかもしれない。
「ねぇ。もっと美麗の世界の事を教えてよ」
「うん、いっぱいお話ししようね」
こうして、魔法ステッキが産まれるのでありました。
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