第81話 乗り換えは遠くを思いながら
「さて、そろそろ乗り換えの駅よ。」
電車の中、次の停車駅についての報せを確認して、美園が口にする。
「うん。ソフィア、降りる準備をしようか。」
「はい、アカリ・・・!」
私の肩にもたれかかるソフィアが、静かに体勢を戻し、小さく伸びをした。
「一応聞くけれど、ソフィアは体調が悪いわけではないのよね?」
「はい。少しだけ疲れているのも本当でしたけど、こうしていると離れるのが惜しくなってしまいまして・・・」
「うん。電車に長く乗る機会はそう多くないし、景色を見ながらゆっくりするのも良いよね。」
「・・・心配して損したわ。」
「それから、ソフィアの体調は繋がってる私も確認できるから、本当に大丈夫だよ。」
「ありがとうございます、アカリ!」
「・・・そういえば、二人はそんな状態だったわよね。最近はあまりにも普通にしているから、忘れそうになるわ。」
「あはは、私達もそういう気持ちでいるから、美園がそんな風に感じるのは良いことだよ。」
「はい。ミソノの言葉も嬉しいです!」
「・・・これ、私は喜ぶべきなのかしら。それとも、大事なことを忘れかけていた自分を恥じたほうが良いのかしら。」
美園が何やらつぶやいているけれど、深く気にしないで良いと思う。
「この乗り換えは、一度駅の外に出るのだったわね。」
「うん。路線の会社が別だし、都会の大きな駅みたいに通路を繋げてもいないみたいだね。」
「駅というのも、本当に様々なのですね・・・大都会のそれは、迷宮と呼ばれるのも納得できるほどでしたし。」
「
「ああ、確か『ろーぐらいく』というものでしたか、アカリ。」
「うん、それだと毎回変わっちゃうけどね。」
仮にそうなれば、通勤や通学でよく利用する人達が、阿鼻叫喚の状態となりそうだ。
「
「いや、たまたま目にした言葉が気になったみたいでね。」
「あっ、響きが頭に残ってしまいまして・・・お手数お掛けしました、アカリ。」
「ううん、そんなこと気にしないで。」
そんな話をしているうちに、私達は横断歩道を一つ越えて、乗り換え先の駅舎へとたどり着く。
「さあ、やって来たわよ。ここにあるのが、私達の目的地へと通じる当駅始発の電車!」
重大なものを見付けたような表情で、美園が口にする。確かに、ここから一時間以上の移動を満員電車に苦しむことなく過ごせるのは、人によっては意味が大きいだろう。
「ただ、ミソノ・・・既に人がかなり並んでいるように見えますが。」
「・・・っ! いえ、まだよ。あれは一本目の、都会の中心部へと向かう電車・・・私達が乗るのは二本目だから、隣にある線の色が違う場所へ並ぶのよ!」
ソフィアの指摘に、美園が一瞬顔を青ざめさせ、上方の掲示を確認して力強く言う。それに背中を押されるように、私達は決して走ることなく、けれど目標はしっかりと見据え、歩みを進めた。
「うん、これなら問題なく三人で座れそうだね。」
そうして、列の前方を無事に確保し、ほっと一息つく。
「今更だけど、このご時世で若者が電車の席に長く座って・・・とか、叩かれたりしないわよね。」
「さすがに、そこまで無差別攻撃ではないと思うよ? 私達は着いた後にも、お仕事が待っているようなものだし。」
「もちろん、本当に必要な人がいれば席は譲りますが、認識阻害はしっかりかけておきましょう。」
こちらの世界の闇を少しばかり感じながら、私達は電車を待ち始めた。
「さて、もうすぐ一本目の電車が来るから、そうしたら私達が横にずれるのよ。」
「なるほど、次の電車を待つ列が、その区域ということですね・・・なんだか、向こうでの騎士団の訓練を、少し思い出すような動きです。」
「ああ、色々な状況での動き方とか、よくやってたよね。」
「え・・・ここで異世界の話題になるの?」
「うん。正確にはソフィアが回復役で私は召喚士、二人とも後衛で騎士団でもなかったから、がっつり参加したわけじゃないけど、やっぱり連携の確認は必要だからね。」
「はい。練度の高い部隊の動きは、本当に綺麗でした。」
「・・・・・・異世界への入口は、どこにでも存在しているのね。」
いや、そんな自由自在に転移するような話でもないけれど・・・美園が混乱から立ち直って間もなく、私達は問題なく列の移動を終え、目的の電車に乗った。
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