第79話 小旅行に向けて

「なるほど・・・私達が今いる国と、その異国との間には多くのことがあったのですね。」

「うん。距離が割と近いこともあってか、昔から交易を行っていた記録があったり・・・望ましいことではないけれど、戦争もね。」

異国街に関する依頼の話から、ソフィアに向けた世界史の授業のような空気が部屋に漂う中、美園も続けて口を開く。


「私達からすると生まれるずっと前の話だけど、近い時代に起きた戦争の影響で、今もこの国を良く思わない人達も多いと聞くわ。」

「それは・・・私が元いた世界を思い返すと、仕方のないことかもしれませんね。」

「そうだね・・・・・・」

ソフィアと私も、滅亡の危機に陥った異世界の一国で出会ったから、その原因を作った相手への感情がどうなるかは、容易に想像がつく。


「ただ、そういう人達ばかりではなくて、今では観光客の行き来も盛んだけどね。この国からしても、あの異国街は有名な観光地だし。」

「なるほど・・・一つの国といっても、様々な考えの人達がいるのですよね。自分が普段過ごす場所を思えば当然なのですが、知らない国や地域となると、時にそれが一つの意思で動いているかのように、錯覚してしまうのが不思議です。」


「ああ、分かる分かる。この国は世界の中でも特に治安が良いと言われていて、全体を見渡せばそれも間違いじゃないかしれないけど、毎日どこかで犯罪は起きてるし、悪霊だって出るんだよ。」

「そうですね・・・これから向かう場所でも、きっと。」


「そう考えると、灯とソフィアは治安の良さに割と貢献しているかもね。まあ、異世界由来の超常現象も起こしてるけど。」

「あはは、認識阻害は忘れないよう気を付けてるからね。」

「それなら、私達だけではなくミソノもですよ。しかし、超常と言うには私はまだまだ拙いので、ウヅキさんとヤヨイさん達を見習います!」

「待って!? 毎回空の旅とかされたら私も困るからね?」

美園の言葉が、ソフィアに気合いを入れさせてしまったようだ。花火大会の時の二人の魔法、凄かったからなあ・・・



「さて、真面目な話も大事だけど、せっかく行くのなら屋台巡りも楽しみたいよね。」

「ええ。何が起きているか調べるばかりでは息が詰まるわ・・・というか、休憩無しで歩き回るわけにもいかないでしょう。」

「た、確かにそうですね・・・ここまでの話ですと、食べ物が有名なところなのですか?」


「うん。その異国の料理を色々楽しめるよ。有名な食べ物も一つや二つじゃないし。」

「ユキ姉・・・遥流華はるかさんから聞いたけど、目立つ場所にあるお店は大行列らしいわよ。」

「そ、それほどまでに人気のある食べ物なのですか?」


「うん。大きな食料品店とかに行けば、同じものも見つけられるだろうけど、本場の雰囲気の中で、専門のお店が作った出来立てを食べるのは、やっぱり良いんだろうね。」

「な、なるほど・・・私も興味が増してきました!」


「ところで、美園はさっきの言い直す必要あったの?」

「あ、あっちではそうしたほうが良いわよ。占い師用の名前で人前に出てるのに、本名をばらすわけにはいかないでしょう。」


「うん、それは確かにね。照れ隠しじゃなかったことにしておこうか。」

「ちょっ・・・!」

「アカリと私は、普段からハルカさん呼びなので大丈夫ですね。」

美園が暴走しかける前に、ソフィアが笑みを向けて話を締めた。



「屋台の他にも、お店の中に入ればコース料理みたいなのも食べられるはずだけど、今回の調査には合わないかしらね。」

「コース・・・というと、改まった場で順番に料理が出てくるものでしょうか。この世界には関係ないとはいえ、あちらでの記憶が・・・」


「ああ、あの時は本当に偉い人達の前だったからね。私も少し緊張したよ。」

「少しで済むのは、アカリの心が強いからかと・・・」

「うわあ・・・そっちの世界のことは分からないけど、想像したらソフィアの気持ちが理解できそうだわ。」


「まあ、何にせよ私達には屋台巡りのほうが合ってるかな。お店でコース料理を人数分頼むのは、時間もそうだけどお高くなりそうだし。」

「ああ、そっちの問題もあるわよね。」

「た、確かにそうですよね・・・私が家計に影響を及ぼしそうでしたら、気を付けますので言ってください、アカリ・・・!」

「いや、生活費には困ってないし、ソフィアは気にしなくていいからね!?」

この世界についての理解が深まってきているのは良いけれど、その辺りもしっかりと認識し始めているようだ。

好きなだけお金が使えるわけじゃないけど、親からの仕送りはあるし、美園の神社から依頼のお礼をもらったりしているから、本当に気にすることは無いんだけどね。


「なんだか甘やかされている気もしますが、アカリが言うのなら、私は信じますね。」

「うん、心配いらないよ。」

少し不安げな顔をしたソフィアの頭を撫でれば、そのまま身体を預けてくるのを引き寄せる。


「あなた達、私がいるのは忘れてないわよね?」

「うん。分かってるから、美園も遥流華さんに連絡してみれば? 打ち合わせを兼ねて、こっちに帰ってもらっても良いんじゃないかな。」

「いや、異国街からここまではそれなりに遠いわよ!?」

異国街への小旅行に向けた私達の話し合いは、まだしばらく続きそうだ。

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