第2部・3章

第78話 異国を想う

「お邪魔するわね・・・あら、どうしたの? 世界地図なんて映して。」

まだ続く夏休みの午後、私達の家にやって来た美園が、端末の画面を見て首を傾げる。


「もちろん、ソフィアと一緒に見ていたんだよ。今まで、他の国については断片的に話すくらいだったけど、そろそろ良い頃合いかと思ってね。」

「はい・・・! 世界はとても広いのですね、ミソノ!」

先程まで、私達が住む国以外にも数多くの異国があることや、世界全体から見ればこの国はほんの一部だということに驚いていたソフィアが、楽しげに声を上げた。


「そ、それは確かにね・・・向こうの世界は、そこまで広くなかったりするの?」

「いや、あっちはまだ移動手段があまり発達してないし、危ない動物なんかも多くて、気軽に測量なんて出来ないだろうからなあ・・・地図という以前に、交流のある国や地域以外のことは、ほとんど分からない状況だね。」


「はい。英雄の皆様方・・・ウヅキさんやヤヨイさん達が、私達が居た一帯を訪れていなければ、お二人が言う『東』や『西』の地も、いまだに知られていなかったかもしれません。それどころか、海というものの存在やそこから運ばれてきた海産物も・・・!」

「ああ、ソフィアは海のものが好きだったわね・・・って、話を戻して。地図が当たり前にある私達とは、感覚が大きく違うのね。この世界も昔はそうだったのでしょうけど。」


「うん。こちらの世界でも、今まで交流が無かった地域同士を繋いだ人達は歴史に名を残してるし、やっぱりウヅキさん達はすごいんだろうね。ソフィアの元いた国から見ても、良い交易になってるらしいところも含めて。」

「アカリ・・・? 悪くなる場合もあるように聞こえますが。」


「うん。現在からすればずっと前のことだけど、人々がそれまでよりも離れた場所へ行けるようになって、遠い地域同士の繋がりが増えた時代があったんだ。

 だけど、それが一方による侵略という結果になったことも多くてね。」

「・・・っ!!」


「ソフィアにとっては好ましくない話でしょうけど、本当なのよね。長い時が経った今でも、その影響が残っているくらいだし。」

「いえ・・・こちらの世界で暮らす者として、私も知っておくべきことですよね。ありがとうございます、アカリ、ミソノ。」

ソフィアが表情を引き締め、私と美園の顔をしっかりと見て言った。



「それで、遥流華はるかさんからの依頼があるんだったよね?」

世界地図を前にした話が一段落ついたところで、美園が今日やって来た理由の詳細を尋ねる。


「ええ。少しの間、いつものお店とは別の所に、頼まれて占いに入っているのは話したわよね。」

「うん。異国街のところだったかな・・・ああ、ソフィア。そこでは、ここにある国の料理を食べられるお店が、たくさん並んでいるんだよ。」

「そ、そうなのですね・・・! 世界の中では、近い距離にあるように見えます。」

周囲の一帯も含めて、人気の観光地にもなっているから、この国にある異国街では最も有名な場所の一つだろう。


「そうね。そこには占いのお店も多くあるんだけど、夏休みの時期でお客さんが増えているところに、普段入っている人が体調を崩してしまったそうでね。

 数日だけでも・・・と懇願されて行ってみたら、大混雑で嬉しい悲鳴状態らしいわ。」

「うわあ・・・それで、遥流華さんが自分で調べる暇はないけど、何か見ちゃったってこと?」


「そういうことよ。具体的には、嫌な気配が散発的に出ているらしいのよね。可能性の話ではあるけれど、そのお店を手伝うきっかけになった、占い師さんの体調不良にも関わりがあるんじゃないかって。」

「それは確かに気になるね。代わりに私達もそこに行って、調査するってことか。」

「ええ。私も同行するから、都合がつくならお願いしたいわ。」


「うん。もちろん引き受けるけど、余程大変じゃなければ、屋台巡りくらいは出来るよね?」

「ええ、どこも大行列なんてことが無ければ、私もそうしたいわ。」

「ミソノの頼みを断るつもりなどありませんよ。それに、異国の雰囲気も感じられるのなら、こちらこそお願いしたいです!」

私達の考えが一致したところで、遥流華さんの依頼を受けながらの異国街への小旅行は決定した。

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