第70話 重い食事と情報

「ソフィア、もう少しで到着するよ。」

「はい、アカリ・・・! 駅の近くまで戻ってきたのですね。」

「うん。さっき話したようなお店は、こういう所に多いんだ。」


先程見かけた、怪しげな陣へと祈りを捧げていた人達が、多く訪れそうな場所で情報を集めるため・・・そしてソフィアには、こちらの世界でまだ食べたことが無いものを楽しんでもらうため、

私達は見張りをしていた花火大会の会場近くから、その最寄り駅まで戻ってきている。


「ところで、ソフィア。水の精霊の力で和らいでいるとはいえ、暑い中で見張りをしたり、ここまで歩いてきたりして、少し疲れてない?」

「そ、そうですね。向こうでの行軍に比べれば楽ですが、多少は・・・」


「そんな時に、皆が喜ぶものといえば?」

「・・・味の濃いもの、でしょうか。」


「その通り! 軽めの食事もできるお店だけど、今日は濃いめのほうを選ぶことでどうかな?」

「はい! その辺りは夕食で調整しましょう、アカリ・・・!」


食事の方針も決まったところで、ソフィアを目的のお店に連れてゆき、メニューに載るたくさんの写真に目を白黒させているそばで、私のお薦めを注文する。

数分後、トレイに乗って出てきたそれを、落とさないように慎重に運び、店内の奥のほうに席を確保した。



「あ、アカリ・・・この料理はサンドイッチと構造が似ているように思いますが、前に教えてもらったハンバーグを挟んで・・・?」

「うん。ハンバーガーと呼ばれてるんだ。幅広く食べられてるけど、今は学校が夏休みの時期だし、平日の今くらいの時間には、こんな風になる印象があるかな。」

ぐるりと店内を見渡せば、ソフィアもこくりとうなずく。


「確かに、先程見かけた人達と雰囲気が近い方が多いですね。」

「そういうこと。若者が多いとか、世間的には言われるのかな。それはそうと、認識阻害は問題なく発動してる?」

「もちろんです、アカリ・・・!」

ソフィアが変に目立たないよう、街中にいる時から使ってはいるけれど、これからすることを考えれば、より強めにしたほうが良いだろう。


「さっきと近いお願いにはなるけど、このお店の中にある声を、私達に届けてくれるかな。アエリエール。」

『承知しました。』

そうして魔力を込め、風の精霊を喚びだして、陣の見張りをしていた時と同じように、周囲の声を空気の流れに乗せて届けてもらう。

・・・もちろん、今回の件と関係ない会話は、何も聞かなかったことにするけれど。


「さて、都合よく欲しい情報が聞こえてくるとは限らないから、それまで食事を楽しもうか。」

「は、はい・・・!」

ソフィアが少し緊張した様子で、トレイに載せられたハンバーガーのセットを見つめた。



「では、いただきます・・・」

まずはメインであるハンバーガーをソフィアが手に取り、包みを開けて一口食べる。


「・・・!! お肉の味がすごく濃いです、アカリ・・・!」

「うんうん、たまにはこういうのも良いよね。でも、もっと思い切りよく食べてもいいんだよ?」

ソースや他の具材なども含めて、そういう味や食感になるよう整えられているだろう、肉厚のハンバーガーは美味しいけれど、ソフィアの食べ方がだいぶおとなしい。


「でも、アカリ・・・口の周りや服についてしまっては・・・」

「大丈夫。服はともかく、口とかを拭くための紙も、一緒に渡されてるんだから。」


「そ、そうですね。では失礼して・・・あむっ!」

ソフィアがうなずき、少し大きめにハンバーガーを口に含む。それでも、周りの人達よりはだいぶ上品に見えるだろうけど。


「・・・た、確かに、こうしたほうが食べ応えを感じますね。」

「うん、そういうこと! それじゃあ、拭いてあげるね。」

「もう・・・やっぱり少し恥ずかしいです、アカリ。」

少しソースのついた口元を、紙で優しく拭うと、ソフィアの頬が少し赤くなった。


「さて、アカリ。次は私の番ですよね?」

「あはは、言うと思った。それじゃあ、私もいただきます!」

自分のトレイにある紙を手に取り、準備万端のソフィアを前に、ハンバーガーを思い切り口に含む。


「もう・・・アカリは躊躇しないのですから。」

「むぐむぐ・・・でも、こうしたほうが美味しいと思うんだよね。」

私の口元を丁寧に拭いてゆくソフィアの、なすがままになりつつ、ハンバーガーの味と、ちょっと嬉しそうにする表情を楽しむ。


「・・・アカリ、何を考えているのか分かりますよ。」

「あはは、それはお互い様じゃない?」

そうして、二人で笑い合うと共に、互いにそっと顔を寄せた。



「これは、じゃがいもを細長く切って、揚げたものなのですか・・・! アカリ、大変です。手が止まらなくなりそうに・・・!」

「あはは、すごくよく分かるよ。家だとここまで美味しく作るの、難しそうだしね。」


「これは・・・たまに買うアイスクリームが飲み物になったのですか? 不思議な感覚ですが美味しいです・・・!」

「うん。少し重めに感じる時もあるけど、たまに飲みたくなるんだよね。」

こうしたお店で定番の一つとも言えるセットを、ソフィアも楽しんでくれたようだ。うちでは料理もするけれど、時にはこんな風に外食も良いよね。



「・・・っ! ソフィア、聞こえる?」

「はい、アカリ・・・!」

半分ほど食べ進んだところで、さっき店に入ってきたのだろう二人連れから、気になる言葉が流れてくる。


「・・・・・・うん? あの場所が噂になってるのかな。呪いがよく効く場所とか、中止のお知らせ処とか。」

「冗談交じりで話しているようにも聞こえましたが、だからあんな風に、遊びにでも来たかのような表情で祈りを・・・?」


「これまでの呪具みたいに、周りに影響を与えて自分を強める効果もあるのかもしれないけど、何にせよ良い状況ではないね。」

「あの場所自体はもちろんですが、これから集まろうとする人への対処が必要になりそうですね。」

情報はある程度得られたけれど、楽しい食事中に少し気が重くなってしまうくらいには、良くない話が出てきていた。



「あっ! 美園も着いたみたいだね。」

その時、私の携帯端末がぶるぶると震える。


「ちょうど良かったですね。情報を共有しましょう。」

すぐにお店の場所を、電波に乗せて送った。


「・・・・・・二人とも、何食べてるの?」

そうしてやって来た美園が、私達のテーブルの上を見て、驚いたような表情をしている。


「見ての通り、ソフィアにこういうお店を体験してもらうためのセットだよ。」

「・・・まあ、二人はよく動くから大丈夫かもしれないけど、私にはカロリーが恐いわ。」


「その点は大丈夫。駅から例の場所への往復コースと、付け合わせに重めの情報が入ってるから。」

「・・・・・・私も同じのにしようかしら。いや、飲み物はやっぱりお茶で。」

美園にとっての最後の一線はあったようだけど、今はお腹を満たしてから、力を入れて対処を考えるのが良さそうだ。

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