第68話 祀りの跡
「まずは結界を・・・!」
「うん。お願い、ソフィア!」
強い風が吹き抜けようとするのを感じる中、ソフィアが結界を作り出し、私達を包む。
「・・・・・・どうやら、魔力で攻撃してくる類のものではなく、見た目にはただの強い風といったところですね。」
「うん、だけど・・・」
「私達に依頼をしてきた、花火大会の準備をする人達にとっては、大変な状況のようね。」
美園が表情を曇らせながら視線を向ける先には、風に飛ばされそうになりしゃがみ込む人や、準備のための資材があちこちに散乱する様子が見える。
「あの方々が準備を始めた時にこうなるというのは、やはり何らかの悪意が働いているのでしょうか。」
「うん、私もそう思うよ。」
私達が確信したところで、ようやく強い風は収まり、同時に近付いてくる存在に気が付いた。
『無事ですか、契約者達よ。』
「ああ、アエリエール! 報せてくれてたのに、応えるのが遅くなってごめん。」
『いえ、私も風の精霊でありながら、そちらへ向かう風を止めるまでには至らず・・・』
「まあまあ、ここは別の世界なんだし気にしないで。それよりも、今起きたことについて何か分かったのかな?」
『はい。先程の風が生まれた場所については、把握しています。』
「分かった。じゃあそこへ案内してくれるかな。」
「宜しくお願いします、アエリエール。」
『承知しました。すぐに向かいましょう。』
「灯、ソフィア。そっちのほうは任せて良いかしら。私は向こうの人達から話を聞いて、妙な力が残っていないかも調べるわ。」
いまだ混乱の中にある、花火大会の準備を進めていた人達を示して、美園が言う。
「うん、分かったよ。あっちのほうは宜しくね、美園。それじゃあ行こうか、ソフィア。」
「はい、アカリ・・・!」
そして私達はアエリエールの案内に従い、悪意ある風が吹いてきた場所へと向かい始めた。
『こちらです、契約者よ。』
「・・・確かに、良くないものを感じるね。」
河川敷をしばらく歩き、一本の木の近くまでやって来た私達を、嫌な気配が出迎える。
「アカリ、見てください。木の根元近くに、陣のようなものが・・・!」
そしてソフィアが見付けたのは、何かを祀るように描かれた模様だった。
「これは・・・明らかに誰かがやったものだよね。しかも、花火大会を邪魔するために?
・・・いや、でも最近のニュースを見てるとあり得るのか、そういうことも。」
「探知魔法で調べてみましたが・・・もう去った後ではありますが、複数の人がいた気配を感じます。おそらく、ここで祈りを捧げるような人は何人も・・・」
「残念だけど、そう考えたほうが良さそうだね。」
「ええ、状況は分かったわ。私は神社の仕事があるから長くはいられないけど、ここへお祈りをしに来る人を調べたほうが良さそうね。」
「うん、その辺は私達がやるよ。」
「任せてください、ミソノ・・・!」
そうして、美園も呼び出して合流した後、ひとまずの方針を決める。
この場ですぐに陣を壊す手もあるけれど、それではまた別の場所に、同じようなものが作られるだけだろう。
「しかし、長時間の見張りということになりますね。認識阻害や結界の準備は、しっかりとしておかなければ。」
「ああ、それについては思い付いたことがあるんだけど・・・」
「は、はい・・・・・・」
こちらの文化には、まだ詳しくないところもあるソフィアが、少し不思議そうにしているけれど、私達は見張りの準備について話し始めた。
*****
「さて、朝早い時間に着けたし、認識阻害で人目のほうも大丈夫。見張りの準備は万全だね。」
「それは良いのですが、アカリ・・・本当にこの中から見張るのですか?」
翌日、問題の陣を確認しやすい場所へと着いた私達の手にあるのは、二人で入れるように改造を施した・・・段ボール箱。
「実のところ、日光を遮ることが出来て、中でアクエリアの力を借りた暑さ対策が可能なら、何でも良いんだけど、
こういう場所にあってもおかしくはなくて、それなりに知名度のある『隠れるもの』という概念が備わっているから、というのが理由かな。」
「ほ、本当ですか・・・? アカリが何か楽しんでいる気が・・・」
「うん。もちろん嘘は吐いていないけど・・・正直なところ、一度やってみたかったんだよね。」
「もう・・・アカリが楽しいなら、私は構いませんが。」
「まあまあ、待つ時間が長くなる気もするから、こういう所に遊びを入れるのも悪くないと思うよ。」
「そ、それはそうですね。」
そうして私達は、繋ぎ合わせた段ボール箱の中に、身体を寄せ合うようにして入った。
「・・・アカリ、なぜこの体勢なのですか?」
「ああ、ほふく前進って言うんだけど、こういうものを被りながら、誰も見ていない時を狙って潜入した敵の拠点を移動してゆく・・・そんな兵士の物語があるんだ。」
「そ、そうなのですか・・・・・・いえ、こちらには探知や認識阻害の魔法が無いので、そのようなこともあるのかもしれませんが。」
「あはは、まあ物語の話ではあるから、こちらの本職の人達がどうしてるかは分からないけどね。」
端末で検索すれば、多少の知識は手に入るかもしれないけれど、それがどこまで実態に合っているかは、学生の私には確かめようがない。ひとまず気にしすぎるのは止めておこう。
「・・・アカリ。今朝は早起きでしたし、こんな機会もそう無いでしょうから、もう少し近くに寄っても良いですか?」
「うん、もちろん・・・!」
ソフィアも楽しむ気持ちになったのか、微笑みながら尋ねてくる。
様子を見るに、こちらは周囲の雰囲気から、ピクニックデートのようなことを思い浮かべているようだ。
もちろん、断る理由などないので、兵士の物真似を止めて体を横にすると、ソフィアと腕を絡め合うようにして、待ち時間をゆったりと過ごすことにした。
「・・・・・・アカリ。もっと長くこうしているのも良いですが・・・」
「うん、人の気配がするね。」
そうして、しばらくの時が経った後、私達はどちらからともなく、それを捉える。
家が多い方角から河川敷を進んでくる、複数人の気配が向かうのは、あの陣が描かれた一本の木だった。
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