第66話 打合せの前に

「それじゃあ、今日はお祓いの打合せに行くわよ・・・って、

 二人とも、少し眠そうかしら?」

神社の前で待ち合わせた朝、やってきた美園に早速気付かれてしまう。


「はい・・・アカリと私が着る浴衣は、どんな色や柄が良いか話し合っていたら、なかなか眠れなくなりまして・・・」

「ああ・・・気持ちは分かるわ。」


「それで、どうせ眠れないならと触れ合っていたら、だいぶ遅い時間になっちゃってね・・・」

「そっちについては、爆発の呪詛とか飛んできてもおかしくないわね。」


「それ、以前にもどこかで聞いたことがある気がしますが、

 そろそろ強力な呪詛返しの魔法を作り上げましょうか。なんでしたらウヅキさんにも相談して。」

「ソフィア・・・昔の流行語みたいなものだから、そこまでは止めてあげようか。」

向こうの世界で『水の賢者』とまで言われる人に相談したら、どんなものが出来上がるのか、正直恐い。


あれを呪詛と捉えた場合の内容からして、ヤヨイさんも進んで協力しそうだし、

返された人は水底に沈められて風で切り裂かれるくらいは・・・うん、他人を呪うなんてするものじゃないね。


「そっちはともかく、私もソフィアも行動に支障が出るような程ではないから、大丈夫だよ。」

「はい。私達もしっかり問題の場所を調べます・・・!」

「ええ、それじゃあ宜しくお願いするわね。」

そうして私達は駅まで歩き、花火大会が行われる場所へと向かう電車に乗った。




「あっ、水神様のお社が小さく見えます。あの場所は今日も、平和そうで良かったですね。」

電車の窓から外を眺めて、ソフィアが口にする。


「そういえば、灯は水の精霊も召喚できるようになったのよね。

 ソフィアの中にある水神様の力とは、干渉したりしないの?」

「ああ、その辺は大丈夫。あの翌日にお参りに行って、ご挨拶もしてきたから。」


「アクエリアも、自分と近い力を持つ別精霊として認識しましたが、特に嫌う様子はありませんでした。

 何より、長い時をこの地で過ごしてきたのは、水神様のほうですからね。」

「それなら良かったわ・・・って、もう行ってたのね。ってそういうことだったの・・・」


「うん。その辺はちゃんとしておいたほうが良いから、

 あとは、アエリエールと『風の子』だけど、向こうは簡単に行ける場所じゃないからね・・・」

「ああ、学校の宿泊学習先だったものね・・・」


「でも、アエリエールは丁寧な精霊ですから、問題は起こらないと思いますよ。」

「ええ、ソフィアがそう言うのなら、大丈夫かしら。」

そもそも向こうの世界では、精霊は魔力を対価に契約して、様々な人に力を貸す存在だったから、

人よりは相性の問題が起こりにくい気もするけれど、それはそれとして、直接話してみると丁寧な印象を受けたのは確かだろう。

それでも、いつかは『風の子』からソフィアが力を授かった場所に、お参りには行きたいけれど。




「さて、駅から少し歩いたけれど、あそこが花火大会の会場ね。」

「なるほど、広い草地のような場所なのですね。火を打ち上げても、見る人との距離は空けられそうです。」


「実際にやる時間は夜だからまだ良いけど、日中にここまで歩くと、少し暑くなるね。」

「はい、アカリもお水を飲んでください。」


「ありがとう、ソフィア。また飲みたくなったら、すぐに渡すからね。」

「さらっと回し飲みしてるわね、あなた達は・・・」

うん、これくらいはいつものことだ。



「それから、昨日連絡した通り、二人はうちのお手伝いということにしてるから、話をする時はそのつもりでね。」

「うん、任せて。あとは周囲の動きも確かめておきたいから・・・」

「そうですね、アカリ。認識阻害はかけておきますので、大丈夫です。」

「ありがとう。それじゃあ・・・」

ソフィアにお礼を言って、力を込めて言葉を紡ぐ。


「風の精霊よ、私に力を貸して。召喚サモン、アエリエール!」

私の詠唱に応えて、辺りに風が巻き起こり、アエリエールが顕現した。


「姿を隠しながら、この辺りで妙な魔力の動きが無いか探ってくれるかな。

 向こうの世界とは、少し力の質が違うから気を付けて。」

『はい、お任せください。』

アエリエールがうなずき、そのまま溶けるように空へと上がってゆく。


探知魔法ディテクトだけでは効果の範囲に限界がありますから、これはありがたいですね、アカリ。」

「うん、地味に力も使うからね。ウヅキさんとヤヨイさんにも、本当に感謝だよ。」

「はい・・・!」


「出来ることが増えたのなら、良かったわ。

 私は関係者との話に意識を割く必要があるから、そっちのほうは頼んだわよ。」

「うん、任せて。」

「私も頑張ります、アカリ、ミソノ・・・!」

そうして私達は、花火大会前のお祓いについての打合せへと歩みを進めた。

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