第2部・2章 空に咲く花
第65話 夏の装い
「今日はあなた達に相談があって来たのよ。」
異世界の精霊達を紹介してから二日、夏休みに入っても、会う頻度がそう変わらない気がするけれど、私達の家に美園がやって来た。
「相談というと、悪霊の類いでも見付かったの?」
「この国では、夏にそうした話がよく語られるそうですね。実際に現れることも多いのでしょうか。」
「いえ、まだそこまで確定的ではないのだけれど・・・だからこそ、少し厄介かもしれないわ。」
「うん・・・?」
「来週、近くの市で花火大会があるのは知ってるわよね。」
「うん。何度か行ったことはあるし、子供の頃に美園と一緒だった時もあるよね。」
「ええ、まさにその場所なんだけど、準備中に原因不明の強風が吹いてくることがあって、困っているらしいわ。
そこでうちの神社に、お祓いの依頼が来たのよね・・・」
「うん・・・何か起きてる可能性もあるけど、ただの自然現象だったら、効き目があるか分からないよね。」
「ええ。そういうこともあって、原因調査も含めて二人の力を借りたいのよ。」
「うん、それはもちろんだけど・・・こうなったら何としてでも、花火大会を成功させたい状況になったかな。」
「え・・・?」
「アカリ、ミソノ、花火大会とは何でしょうか?」
「ああ、そういうこと・・・」
強く興味を持った様子で、尋ねてくるソフィアの姿がそこにあった。
「花火というのは、向こうの世界でも使われてる狼煙から発展したと言われていてね。空に模様を描くことが出来るんだ。ほら、こんな風に・・・」
「・・・! これは綺麗ですね!」
携帯端末で検索結果を表示させれば、ソフィアが早速目を奪われている。
「うん。この国では元々、信仰されている神様に祈りを捧げたり、亡くなった人を弔うために行われたそうだけど、今はみんなで見て楽しむもの、という印象が強いかな。
これがたくさん描かれるお祭り・・・花火大会が、今の季節は本当にたくさんの場所で開催されてるんだ。」
「えっ・・・! この印が付いている所全てですか・・・? 確かにすごい数です。」
「まあ、同じ国とはいえ、ここからだと遠い所も多いから、実際に行くなら近場の何ヵ所かになるだろうけど、
一番近いのが、美園の神社に依頼が来た所なんだ。」
「それが、強い風が吹くと困ってしまうのでしたね。」
「うん。こんな風に、燃えやすいものを丸い形に詰めて、空に飛ばすからね。
風が強い日だと、予定していない場所に流されたり、空に上がりきらずに爆発したりして、近くにいる人が危なくなるんだ。
それで中止になる大会も、毎年いくつか出てると思うよ。」
「なるほど・・・ここに細かい仕掛けをして、色や模様を作るのですね。
私もぜひ見たいと思いますし、何かが邪魔しているようなら、絶対に止めましょう!」
「うん、方針は決まったね。」
「ええ、こちらとしてはありがたいわ。」
近場の花火大会が無事に開催されるよう、私とソフィアも力を入れて美園を手伝うことで、話はまとまった。
「じゃあ、現地での打合せは二日後だから、うちの神社と向こうの間で詳しく決まったら、連絡するわ。」
「了解! それで、ここからは当日についての相談なんだけど・・・」
「うん・・・? どうしたのよ。」
「ソフィアと三人で浴衣を着て、花火大会を楽しむってことでどうかな?
これは成功報酬と捉えてもらっても良いよ。」
「あ、アカリ・・・この催しを楽しめるのはもちろん嬉しいですが、浴衣とは・・・?」
「この国の伝統的な服の一つで、普段から着る人は少なめだけど、この時期の催し物では割と見られるし、それを楽しみにする人も多いと思うよ。
ソフィアが着るとすごく華やかになるだろうし、もし良かったらぜひ着てほしいかな・・・ほら、こんな感じ。」
「・・・!! す、素敵です。
良いのですか? これほどの服を私が・・・!」
携帯端末で検索した画像を見せると、ソフィアが驚きの声を上げる。
「もちろん、これを着たソフィアを想像するだけで、私は楽しみだよ。」
「う、嬉しいですけど、アカリも・・・似合うと思いますよ?」
何を思い浮かべたのか、その頬が赤くなるのが分かった。
「・・・灯、大事なことを忘れていないかしら。」
「うん? 何かあるかな。」
「ミソノ・・・?」
「いつもの認識阻害は厳重にしておきなさい。ソフィアがこれを着てお祭りなんかに行ったら、人だかりが出来て身動きが取れなくなるわ・・・!」
「もちろん! 水着の時と同等かそれ以上に、そんな形で人目に触れさせるつもりはないよ。」
「アカリ・・・? それにミソノも、普段と勢いが違いませんか・・・!?」
うん。美園は家が神社の影響か、こうした装いが好きなところがあるからね、仕方ない。
こうして花火大会の成功と、ソフィアの浴衣姿を目指す、私達の計画は幕を開けた。
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