第64話 再会

「それでは、喚びますね。心の準備は良いですか?」

ウヅキさんが私達に、悪戯っぽく笑いかける。


「は、はい・・・・・・」

「喚ぶって、まさか・・・この世界で・・・?」

私とソフィアに少しの緊張が走る中、掲げられた杖が光を放ち、その言葉は紡がれた。


「顕現してください、水の精霊アクエリア・・・!」

杖の先から生まれた水の流れが、ぐるぐると渦を巻き、やがて女性の姿を象る。


「えっ、アクエ・・・!? その姿は・・・それに名前も違ったの?」

向こうの世界で私が召喚していた時と、違った様子に驚きを隠せない。


「真名はもっと長いですよ? ・・・あっ、アクエリアが、『もっと私に集中していれば、理解わかったかもしれないのに、火の精霊ばっかり使って・・・』だそうです。」

「うぐっ・・・それは、その通りです・・・」

いや、火力って分かりやすく敵に効果あったからね?


「『でも、最後に風の精霊と一緒にやったことは面白かったから、まあいいわ。』

 だそうですが・・・何かしたのですか?」

「ああ、騎士団と協力しても倒しきれない相手がいたので、

 こちらの世界の知識を使って、水と風の精霊の力を合わせ、雷を起こして攻撃したんです。」


「水と風で、雷・・・興味深いです! ヤヨイ、今度一緒にやりませんか?」

「それ、自分達にも影響が無いように考えなきゃいけないやつだよね。

 やっぱり精霊に遠隔でやってもらうのが良いかも。ああ、そうだ・・・」

ヤヨイさんが掌を上に向け、見えないものを浮かべるような仕草をしてから、言葉を紡ぐ。


「顕現してくれるかな。風の精霊アエリエール。」

ウヅキさんの時とは違い、何でもないことのように、その場で風は巻き起こり、中性的な姿の精霊が現れた。


「アエル・・・!? やっぱり私が認識できた名前とは、違うんですね。」

「うん・・・? 『仕方ない。私達の名を深く認識できる人間のほうが稀。』だそうだよ。」


「アエルが優しい・・・! といいますか、ヤヨイさんは剣士のはずですよね。召喚士と同じことも出来るんですか。」

「まあ、実のところウヅキに手伝ってもらってる部分はあるけど、風との相性だけは良いからね。・・・ん? そんな風に誉められても、何も出ないよ。」

あれ、ヤヨイさん? 私達に聞こえない会話を始めていらっしゃる・・・?


「『そんなことはない。召喚を主とする人達に比べても、あなたの技は優れている。』と、アエリエールは言っていたのですよ。」

「ちょっと、ウヅキ・・・!」

うん。これで聞こえるってことは、やっぱりウヅキさんも手伝っているのかな。


「ところで、ソフィアもアクエ達の名前に先があったことは、知らなかったの?」

「私は神官が本職でしたので・・・そもそも、知っていたらアカリにも教えているに決まっているでしょう?」

「あはは、そうだよね。ごめんごめん。」

少し頬を膨らませたソフィアに、急いで謝る。


「『この二人は、見ていて飽きない。』だそうですよ。」

「そ、それは翻訳しないで大丈夫です!」

ウヅキさんの微笑みに、私達は少しのダメージを受けた。



「さて、アカリさんとソフィアさんも、向こうの世界でアクエリアとアエリエールを召喚していたかと思います。

 こちらでも、そうしたいと思いますか?」

「えっ・・・! その、ここでは戦いのために喚ぶようなことは少ないですが、また会えるなら嬉しいです。」

「は、はい! 私もアカリと同じ気持ちです・・・!」


「お二人の気持ちは、確かに受け取りました。

 それではアクエリア、アエリエール。改めて伺いますが、あなた方の分体を二人の傍に置くことは問題ありませんね?」

「・・・!!」

こくりとうなずき、了承の意を返したことが、私達にも分かった。


「では、アカリさん。手を出してください。」

「は、はい!」

ウヅキさんに促されるまま、手を前に出すと、

顕現していたアクエとアエル・・・いや、アクエリアとアエリエールが、私の中へと吸い込まれてゆく。


あれ・・・? これは、二段階目とでも言えば良いのだろうか。ウヅキさん達が開放していた名前ごと譲渡されているだろうか。

少し反則のようなことをした気分だけど、アクエリアの反応を見るに、精霊達もそのほうが嬉しいようだ。ありがたくこのまま受け入れることにしよう。


「またよろしくね。水の精霊アクエリア、風の精霊アエリエール。」

『・・・!!』

同意の意思が、私へと返ってきた。


「あっ、私もアカリに召喚されているからでしょうか。繋がりが増えたのが分かります・・・!

 ・・・はい。私も少しばかり状態は変わりましたが、宜しくお願いしますね。」

うん。ソフィアも二人に挨拶できたようで良かった。



*****



「というわけで、仲間が増えました。」

「簡単に言うんじゃないわよ! また灯の気配が変わってたから、何かあったのかと驚いたわ!」


向こうの世界へと戻るウヅキさんとヤヨイさんを見送り、部屋の掃除などを済ませた後、

美園への報告に神社へと向かえば、早速驚きの声が飛んでくる。


「ふふっ、ミソノはアカリのこと、本当にすぐ気が付くのですね。」

「そ、それは子供の頃から知っているからね。」

微笑むソフィアに、美園の頬が少し赤くなった。


「あっ・・・アクエリアとアエリエールが、『この人間にも、精霊がついているの?』だそうです。」

「精霊・・・? それは無いと思うけど。」


「ああ、この神社でお祀りしている神様のことだと思うよ。お狐様の事件の時、美園を助けてくれていたし。」

「確かに、呼び方は違えど、存在としては似たところがあるかもしれません。」


「うんうん、異世界の精霊にも分かるくらい、美園はここの神様と繋がってるってことだよ。」

「そ、それなら良かったわ。」

美園が平静を装いつつも、嬉しそうな様子で口にする。


「また何か起きた時の話にはなるけれど、私達が出来ることも増えているから、頼りにしてもらって良いよ。」

「・・・それはありがたいけど、別の騒ぎにならないよう、宜しく頼むわね。」

「分かりました、ミソノ・・・! 私もアカリも気を付けます。」


夏の日、異世界からの来訪者にして英雄との出会いから、私とソフィアは向こうの仲間との再会を果たしたのだった。

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