第2部・1章 隣り合う世界

第62話 気怠い朝に

「うん・・・・・・」

少し身体が重い感覚を覚えながら、目を覚ます。


「ん・・・おはようございます、アカリ。」

ほとんど同じくらいに起きた様子で、ソフィアがゆっくりと瞼を開いた。


「おはよう、ソフィア。もしかしてだけど・・・」

「アカリもですか・・・疲れがだいぶ残っているように感じるのは。」

私とソフィアは召喚で繋がっているし、思いあたる節も確かにある。


「力の使いすぎ・・・でしょうか。」

「うん、そうだろうね。」

昨日は私達に干渉してきた、探知魔法では姿の見えない存在を見付け出すため、

夕立に紛れる形で水神様の力と風の子の力、そしてこちらの動きを掴ませないためにお狐様の力も使っていた。

いずれもソフィアがお借りしているものではあるけれど、発動する時の元となるのは、結局は魔力だ。


あの時は正体の分からない相手を探すのに必死だったし、

いざそれを見付け出せば、私達が出会った世界の英雄だったことが分かり、舞い上がってしまったけれど、疲れはしっかりと蓄積されていたようだ。


「ごめんなさい、アカリ。私がもう少し抑えることが出来ていれば・・・」

「何言ってるの。二人で決めたことだし、魔力だって分け合っているんだから、

 ソフィアが私に謝ることなんて何も無いよ。」

「ありがとうございます、アカリ。」

ソフィアの髪を撫でて言えば、微笑んで顔を寄せてきた。



「そういえば、熱とかはないよね。」

そのまま額を近付けて、ぴたりと合わせる。


「はい・・・こうすれば、お互いの考えていることが分かるんでしたっけ?」

「あはは、そういう場面が出てくる物語、いくつかあるよね。

 私達には必要ないやり方だけど。」


「なんでしたら、召喚を解いてアカリの中に戻れば、完全に心で通じ合う状態になりますよ?」

「それはソフィアに触れられないから、嫌かな。」

「ん・・・・・・」

そうしてもう少し触れ合った後、二人で微笑みあった。



「しかし、こうしているのも良いですが、

 食事くらいはしないと、体力が回復しませんね。」

「そうだね。ここは私に任せて・・・」

「あっ、アカリ! そういうつもりではなく、私が・・・」

二人で起き上がろうとした時、枕元で異変が起こる。


「あれ・・・何か光ってる?」

「・・・! 『水の賢者』様・・・いえ、ウヅキさんからいただいた珠ですね。」

「これは、どうすればいいんだろう。とりあえず手に取って・・・」


『あっ、繋がりましたね。おはようございます。

 アカリさん、ソフィアさん、聞こえますか?』

「わっ・・・?」

私が触れた瞬間、急に声が響いて少し驚いてしまう。


『あ・・・びっくりさせてしまいましたね。ごめんなさい。

 ヤヨイとまたこちらへ来ましたので、ご挨拶をと思いまして。

 お二人とも、お元気ですか?』

「お、おはようございます・・・」

実のところ、元気ではないのだけれど。

ソフィアと目を合わせ、どう答えるか逡巡する。


『あれ・・・? 少し声に元気が無いですね。

 ・・・! よくよく確かめれば、弱っている感じでしょうか。

 すぐに転移で向かいます・・・!』

「えっ、待ってください。そこまで大事では・・・」

「あわわわ・・・お二人がここに?」

慌てる間もなく、近くに転移魔法陣が展開され、ウヅキさんとヤヨイさんが現れた。

二人で布団をかぶったままの私達が、対応に困ったのは言うまでもない。



「お騒がせしましてごめんなさい。

 それで本題ですが・・・やはりお二人とも消耗されているようですね。

 あの、もしかして・・・」

「ああ、私達のことは気にせず、実態を教えてもらって構わないよ。

 そのほうが、対処もしやすいから。」

察してしまった様子のウヅキさんに続いて、ヤヨイさんも私達が遠慮するのを見越したように伝えてくる。

そこまで言われては仕方ないので、ソフィアとありのままを話した。


「なるほど・・・変に接触してしまった上に、姿を隠した私達を見つけ出すために、

 普段以上の力を・・・完全にこちらのせいですね。ごめんなさい。」

「い、いえ、私達の力の使い方が未熟なだけで・・・」

さすがに英雄と呼ばれる二人に頭を下げられるのは、心臓に悪い。

特にソフィアのほうが。


「ひとまず、症状については分かりましたので、回復しましょう。

 少しじっとしていてくださいね。」

「えっ・・・肉体的な傷ならともかく、

 この状態を治せるのって、向こうにいた時に聞いたことは無いのですが。」

「わ、私もです・・・」


「あっ、だ、大丈夫ですよ。ほら、私は『水の賢者』ですから。」

・・・うん、何か誤魔化された気はするけれど、本人が言うなら出来るのだろう。


「ウヅキ、やりすぎないようにね・・・?」

「き、気を付けます・・・!」

待って、やりすぎたら私達どうなるの・・・!?

そう尋ねる間もなく、ウヅキさんの魔法が私達を包み込んだ。



「・・・・・・あれ? 本当に回復してる・・・

 いや、むしろ絶好調・・・!?」

「これは・・・力がみなぎるようです。

 さすがは『水の賢者』様の魔法・・・!」


「・・・・・・ウヅキ?」

「ごめんなさい、まだこの身体にあまり慣れていなくて・・・」

あっ、少しやりすぎだったみたい。



*****



「本当にありがとうございました。お礼にこちらの食事でもどうですか?」

すっかり元気になったところで、起き上がって二人に尋ねる。


「あ、ありがとうございます・・・

 でも、私達は精神を少し飛ばしてきた状態で・・・

 実体はありますけど、食べられるんでしょうか。」

「うーん・・・物は試しかな。

 せっかく勧めてくれてるんだし、私が食べてみようか。

 こちらの世界の食べ物も気にはなるし・・・それで悪い影響があるなら、次からは止めておこう。」

「そうですね・・・」


「あの・・・私が向こうに召喚されている時は、普通に食べていましたし、

 今のソフィアも大丈夫ですけど、何か良くなさそうですか?」

「・・・一つ違いがあるとすれば、

 アカリさんもソフィアさんも、はその世界にいる状態ですよね?

 私達は自分から世界の境を越えてきていますので、まだ手探りという状況なのです。」

「そ、それは確かに・・・

 いや、自分達の時には、何も考えていなかったというのが正しいですが。」


「なるほど・・・それはある意味、すごく心が強いかもしれないね。」

「・・・ヤヨイ、この話の流れは、初めて会った頃の誰かを思い出しそうなのは、気のせいでしょうか。」

ウヅキさんが少し遠い目をしたけど、誰のことだろう。六人の英雄のうちの一人・・・という感じはするけれど。



「お待たせしました。簡単ではありますが、

 この国でよく食べられている食事です。」

さて、ウヅキさんとヤヨイさんの相手はソフィアに任せて、

手早く作ったものではあるけれど、簡単な朝食が出来たところで、

いつも食事をしている部屋に来てもらう。


「・・・・・・え?」

「・・・これは、不思議だね。」

お二人の目が点になっているけれど、どうしたのだろう。


「なぜここに、東大陸の料理があるのでしょうか・・・?」

「「・・・えっ?」」

私達がいたのは通称『南大陸』で、交易路が繋がっていたのも『西大陸』だったから、そちらの文化は想像がつかないけれど、

どうやら、二つの世界を巡る不思議に、触れてしまったようだ。

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