第7章 海へ行こう

第52話 海への準備

「ねえ、ソフィア。夏休みに入ったら、海へ行かない?」

あの町から帰ってきて数日、高校は夏休み目前となってきたところで、

このところ考えていたことを話してみる。


「海、ですか・・・それは、都会で少し見たようなものではなく、

 アカリが宿で教えてくれた、水辺にたくさんの人がいる所のことでしょうか?」

「うん。他にも船を間近で見たり、海で採れたものを食べたりもできるよ。

 ソフィアは海を目にしただけでも、すごく嬉しそうだったから、

 色々楽しんでもらえるといいかなと思って。」


「ありがとうございます、アカリ・・・!

 ・・・ところで、あの水着という、肌が多く出ていた服は・・・」

「うん。海に入るなら着たほうが良いし、それも試してみない?」


「・・・・・・ど、どうしてもと言うのでしたら・・・」

「ああ、ソフィアが嫌なら無理にとは言わないけど、

 こっちの感覚だと、そういう衣装を楽しむ空気もあるし、

 せっかく海へ行くなら、私も一緒に着てみようかなと思って。」

「アカリも一緒に・・・・・・確かにそうですよね。

 わ、分かりました。私も試してみます!」

うん。私も水着になるという所に、一番反応していたような気もするけど、

きっと同じ気持ちだから仕方ない。


「それじゃあ、明日学校が終わったら、

 駅前のお店に行ってみようか。」

「はい、そうしましょう!」

こうして、私とソフィアの海へと出かける準備は始まった。



*****



「あ、アカリ・・・多少は心の準備をしてきたつもりでしたが、

 実際に目にすると、これは・・・」

そして今、お店の水着を一通り見回ったところで、

ソフィアが顔を赤らめている。


「うん、気持ちは分かるけど、

 こっちの水着って、今はこういうものが主流なんだよね。」

「いっそのこと、学校用だという黒一色のあれは・・・」


「ソフィア。向こうの世界でも、

 戦場に訓練用の武具で来る騎士はいなかったでしょ?」

「そ、それは確かにその通りですが、

 そういう話なのですか、これは・・・!?」


「それはともかく、こうしてソフィアと水着の実物を見て、

 私は一つ決意したことがあるよ。」

「な、なんですか、アカリ・・・?」


「現地での認識阻害は、厳重にしよう。

 これを着たソフィアが、いやらしい視線を向けられるのは、

 絶対に阻止しなきゃ。」

「それは私も同じ気持ちです。

 アカリがそんな目で見られるのは、許せません。」


うん、この場に美園がいたなら、

いい加減にしなさい・・・! とか言われそうな気がするけど、

今は家・・・というか神社だろうし、私とソフィアの間ではこれで良いのだ。



「話がまとまったところで、私達だけで・・・

 増えるとしても、美園や遥流華はるかさんくらいが見ることを考えて、

 似合いそうなのを選ぼうか。

 ソフィアは金色の髪が綺麗だし、青系なんてどうかな。」

「もう・・・それは不意打ちです。

 私はその色で構いませんが・・・アカリにも似合うのでは?」


「そうかな・・・じゃあ、お揃いにする?」

「お揃い・・・! はい、そうしましょう、アカリ・・・!」


ソフィアもうなずいてくれたので、軽くサイズを確認して、

同じ色の水着を二つ購入する。

さて、帰ろうかというところだけど・・・



「ソフィア。たった今あっちのほうに、変な気配が現れなかった?」

「はい、私も感じています。

 霊的存在ではないようですが・・・何か悪意のようなものが。」


「うん、これは多分あれかな。

 ソフィア、ひとまず調べてみようか。」

「はい・・・探知魔法ディテクト

 いました。人が狭いところに潜んでいるようですが・・・

 まさかこの平和な国に、暗殺者のような存在が?」


「いや、そこまでではないけど、

 向こうにはこのお店の服を、試しに着ることが出来る場所があってね。

 つまりは人が着替えるわけで・・・」

「・・・! まさか・・・!!」


「うん。覗きってやつだと思うよ。

 それで・・・やろうか?」

「はい。このような行為は許せません・・・!」


方針が決まったところで、私達が目立たないよう、

最初からかけている認識阻害を強化する。

そして、実行の時だ。


「風を吹かせます・・・!」

ソフィアが力を発動すると共に、辺りの塵を巻き込みながら、

一点に向けて風が吹き抜けてゆく。


間もなく、悲鳴が上がると共に、

目を押さえた犯人が見つかり、そのまま捕えられた。



「お疲れ様、ソフィア。最後にやることが一つ増えちゃったけど、

 無事に終わったし、帰ってご飯にしようか。」

「ありがとうございます、アカリ。

 ・・・これを着るのは、やはり恥ずかしい気持ちもありますが、

 アカリと一緒なら、なんだか楽しみです。」


「うん。出発まであと少しだから、楽しみにしててね。」

「はい・・・!」

お揃いの水着の包みを提げて、私達は手を繋ぎながら家へと帰った。

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